公開日: |更新日:
クリニックの開業において、実現性の高い事業計画の立案が必須です。その事業計画に欠かせないのが「クリニックのコンセプト」。しかし、どのようにコンセプトを決めていくべきか、悩んでしまう医師も少なくありません。
ここではクリニックの事業計画や運営に必要な考え方「コンセプト」とは何かを解説します。
クリニックのコンセプトとは、わかりやすくいうと「クリニックの特徴や強み」です。開業にあたっては、そのコンセプトを前面に打ち出して、どんなクリニックを目指しているかを明らかにすることが集患やスタッフの採用に大きく影響します。
もちろん、コンセプトは患者さんのニーズや開業エリアの特性も踏まえて検討しなければなりません。
最初に、コンセプトを検討する際に注意すべきポイントをいくつか紹介しましょう。
コンセプトを検討する際は、まず診療内容やターゲットを明確にすることが大切です。診療内容が明確になれば、クリニックの方向性も見えてきます。そしてターゲット、対象となる患者層を決めると、自ずと診療ニーズも明らかになるでしょう。
たとえば消化管の内視鏡検査に力を入れたいと考えるなら、胃がんや大腸がんを心配している年代など、具体的な患者層を絞り込んでいきます。そうすることでコンセプトもはっきりし、事業計画における集患の戦略も立てやすくなります。
開業エリアにはライバルとなる多くのクリニックが存在し、患者さんの立場からすると同じような診療を行なっているように見えるかもしれません。その場合はクリニックのコンセプトを明確にし、患者さんの注目を集めなければなりません。
コンセプトの違いを打ち出すポイントはさまざまです。たとえば他にない特別な技術や医療設備などが挙げられます。他のクリニックと比較して、医療機能や水準など、自院の強みを明らかにするコンセプトを検討しましょう。
患者さんは目で見る情報のほうが受け止めやすいので、コンセプトは言葉で説明するだけではなく、イラストで表現するなど具体的にイメージすることも大切です。
たとえばアイコンや画像、動画などのビジュアルコンテンツを駆使したウェブサイトを作成し、コンセプトを具体化するのも一手です。そうすることでクリニックの強みを患者さんに伝えられるでしょう。
コンセプトとブランドは似て非なるものであり、その違いを理解しておくことが重要です。クリニックでいえば、ブランドは患者さんに対するメッセージ、約束事のようなものですが、コンセプトは診療の特徴や強みを具体化し、競合先との差別化を図るものでもあります。
たとえば、あるクリニックが「安全性が高く患者さんに優しい医療」を目指しているなら、これはブランドの一部といえます。そして、そのクリニックが「身体への負担が少ない内視鏡検査」を特徴にしているなら、これがコンセプトとして成立します。
「差別化=クリニックの強み」と考えるなら、競合先に対してどのように差別化を図るべきでしょうか。その場合、複数の視点から自院の優位性を明らかにできるポイントを検討していくのが近道です。
まず、クリニックの診療科や診療内容に独自性が高ければ、それだけでも競合先に対して高い優位性を発揮できます。加えて診療可能な領域や技術に高度な専門性があれば、患者さんに選んでもらえる可能性は高くなるでしょう。特に近年はネットの情報によってクリニックを比較する患者さんが増えているので、以前にもましてクリニックの独自性を求められる時代になったともいえます。
クリニックが新しい技術や医療機器を積極的に導入しているケースも、同じように独自性、優位性につながります。
アクセス性の高さも競合先との差別化におけるわかりやすいポイントです。駅に近い立地なら鉄道を利用する患者さんが通院しやすく、人口の多いエリアなら診療圏の潜在患者数も多くなります。ファミリー層が多いエリアなら小児科のニーズが高まるように、地域のニーズも立地の優位性を左右する条件です。
立地を差別化のポイントにするなら、該当エリアの人口における潜在患者層を把握し、求められる診療内容を充実させていくことが必要です。
広告によってクリニックの認知度を高めているかどうかも、競合先との差別化を図る上で重要なポイントです。広告は潜在患者層の目に届きやすい方法を選択するのが基本ですが、多額の費用を要するTVCMなどとは異なり、多くのクリニックで利用しやすいのが「リスティング広告」です。
リスティング広告とはインターネット検索エンジンの結果表示画面に表示され、多くのクリニックが集患に利用しています。安価ですぐに始められるほか、エリアを絞って表示させることもできるなど、さまざまなメリットがあります。
クリニックのスケール、つまり規模も競合先との差別化ポイントになる可能性があります。単純に敷地面積が広ければ診療のキャパシティも高まり、待ち時間の減少や駐車スペースの確保など患者さんの利便性を高められます。
また、スケールメリットを発揮できるのは大規模なクリニックに限られるわけではありません。特に都市部であれば、認知度が高い有名なビルなどに開業しているクリニックのほうが患者さんから信頼を得やすいという一面もあります。
美容系など自由診療を手がけるクリニックに限られますが、価格で競合先との差別化を図るのも重要なポイントです。患者さんが自由診療のクリニックを選択する場合、どうしても価格差は注目されやすいからです。競合先の費用設定は常に把握しておかなければなりません。
価格を差別化のポイントにするなら、費用の目安をホームページなどで発信して患者さんに認知してもらう必要があります。どんなに価格競争力が高くても、知ってもらえなければ意味がないからです。もちろん、情報発信の際には患者さんが優良誤認や有利誤認を起こさないような表現を心がけましょう。
開業を決意した医師が理想のクリニックを実現させるためには、コンセプトに基づいて経営を軌道に乗せていかなければなりません。
コンセプトが重要な理由を、さらに深く考えてみましょう。
クリニックが目指している姿や提供している診療内容を明確にすることで、どんなクリニックなのか患者さんに伝わりやすくなります。それによってクリニックの診療を必要としている患者さんに存在を知ってもらえるようになるでしょう。
クリニックのコンセプトが明確であれば、それを実現させるために何が必要か見えやすくなります。必要な設備やスタッフ、資金がわかると開業準備のスムーズに進むはずです。
コンセプトは患者さんに対してだけではなく、ともに働くスタッフに浸透させることも大切です。スタッフ一人ひとりがコンセプトを理解すればクリニックの方向性の共有にもつながり、結果としてチームワークが高まります。
しばしば開業医は経営判断や意思決定を求められる場面に遭遇します。それが重大なことであれば決断に迷うかもしれません。そんなとき、改めてクリニックのコンセプトに立ち返れば初心に戻ってぶれない判断を下せるでしょう。
スタッフを採用する際、クリニックのコンセプトが明確なら、それを理解した上で共感できるかどうかを判断基準にできます。また、クリニックの採用情報にコンセプトを明示しておけば、それに共感する人材が集まりやすくなるでしょう。
クリニックのコンセプトを決めるには、主に3つの方法があります。
開業する医師がどんな医療を提供したいのか、これこそがもっともコンセプトに直結させるべき要素です。たとえば、ファミリー層に向けた一次医療の提供を目指すとします。その地域で暮らす家族の健康を守るというスタンスをコンセプトに掲げて具体的な診療内容を打ち出すことで、それを求める地域住民の来院につながるでしょう。
開業エリアにどんな人が多いのかをリサーチしてコンセプトを決めていく方法もあります。たとえば、会社勤めの方や学生さんが多いエリアなら、待ち時間が少なく忙しい人でも通いやすいクリニックをコンセプトに掲げると評判を呼びやすいでしょう。
シンプルに立地の良さをコンセプトに活用するのもいいでしょう。駅にほど近い立地なら「駅から徒歩〇分で通いやすいクリニック」など、アクセスの優位性をコンセプトに盛り込んでいきます。
どんなに耳障りのいいコンセプトを決めても、大切な要素が欠けていれば集患につながりません。最後に、コンセプトを決める際に気をつけるべきことをお伝えします。
せっかくコンセプトを決めても、患者さんのニーズとマッチしていなければ集患は望めません。まずはターゲットとなる患者層のニーズを徹底的に調査することです。そして開業後は、実際に来院してくれた患者さんの声に耳を傾けることも大切です。
患者さんのニーズを正確に把握することが求められる医療の提供につながり、それをなくして競合先との差別化はできないのです。
繰り返しになりますが、コンセプトとは「クリニックの特徴や強み」を示すものです。専門性や診療内容、医療の水準など、患者さんに注目されるポイントを強調し、理解してもらわなければなりません。
クリニックの特徴や強みを表すコンセプトは、患者さんからの信頼にもつながります。集患に成功しているクリニックは、例外なくコンセプトがしっかりしていると心得ましょう。
クリニックのコンセプトは事業計画の土台であり、開業後は経営における意思決定の軸になるものです。それがなければスタッフが共通認識を持って患者さんを迎えることが難しく、経営も脆弱なものになってしまいます。コンセプトの策定は、開業準備においてもっとも重要なプロセスといっても過言ではないでしょう。
医師の理想ばかりが先行して、独りよがりのコンセプトになってもいけません。もしコンセプトの策定に悩んだら、経験豊富な開業コンサルなどの専門家に相談して、第三者の視点からアドバイスを受けることも必要です。