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開業して独立を目指すのであれば、さまざまな保険についても広く知っておくことが必要です。
勤務医であれば何らかのトラブルがあっても組織が守ってくれますが、開業医であれば自身が経営者として組織やスタッフを守らなければなりません。そう考えると、想定すべきリスクの種類は勤務医時代とは比べ物にならないほど多くなります。
トラブルはいつ何時、どんな形で降りかかってくるかは誰にもわかりません。ご自身の家族はもちろん、雇用するスタッフの人生にも一定の責任を負わなければならないのが経営者たる開業医の立場ですから、開業医が備えるべきリスクにはどんなものがあるのかをしっかり認識しておきましょう。そして、そのリスクに対応できる保険を検討すべきです。
すでに生命保険や入院保険に加入しているドクターも多いと思われますが、自身の不慮の事故や病気療養に備えるだけでは十分とはいえません。
もし開業医が事故や病気・災害で仕事ができなくなったら、開業資金の返済が滞ってしまうかもしれません。そうした事態に備えて、開業時の資金調達に合わせて団体信用生命保険の加入をおすすめします。不幸にも契約者が亡くなってしまった場合は、保険金でローンの全額返済が可能です。
ただし、亡くなるのではなく長期的な療養で仕事ができない場合は、団体信用生命保険の保障対象にはなりません。長く休診して収入が途絶えても、開業資金の返済は続けなければならないため、団体信用生命保険だけでは安心できないと感じられるでしょう。そんなときはさまざまな損害保険会社が取り扱っている休業補償保険がおすすめです。入院期間だけではなく自宅療養期間も含んだ休業期間に対して、一定の保険金が掛け金に応じて支給されます。
開業医が働けなくなったときの経済的なリスクの高さは、勤務医とは比較になりません。団体信用生命保険や休業補償保険の加入は必ず検討すべきです。
多くのドクターが開業前から生命保険に加入していると思われますが、必要性に乏しい保障内容が含まれているケースも少なくありません。開業準備で慌ただしくなる前に、早めに内容を見直して開業医に合った保障内容を組み立てることをおすすめします。
場合によっては保険料の支出を抑え、その分をクリニックの運転資金に回すことも可能になります。
開業医として独立することで、ドクター自身だけではなくクリニックの建物や医療設備等に対するリスクも考えなければなりません。そこで加入しておくべきなのが火災保険です。
一般住宅向けの火災保険と同様に、火災や強風、浸水などによる被害の補償を受けられる保険です。どのケースも損害が巨額になりやすいため、施設に対するリスクヘッジとして火災保険は必ず加入しておきましょう。
火災保険は自然災害全般をカバーできるわけではありません。特に地震による被害は、建物の倒壊や設備の損壊、二次火災など多岐にわたりますが、火災保険ではこれらの被害が補償対象外となる場合があります。地震保険はこうした自然災害に備えるための専用保険であり、地震による損害を補償することでクリニック経営における財務的リスクを軽減できます。
特に医療機関の建物や医療機器は高額であり、地震の被害を受けた際の負担は非常に大きくなります。事業の早期復旧を目指すためにも、地震保険はリスクマネジメントの重要な選択肢です。開業時には火災保険と合わせて、地震保険の検討を強くおすすめします。
病気やケガで長期間働けなくなった場合、クリニックの運営資金や自身の生活費に大きな影響を及ぼす可能性があります。クリニックの場合は収入の多くを開業医自身の診療活動に依存しているので、万が一の事態に備えることが重要です。
所得補償保険は、開業医が働けなくなった期間に一定額の収入を保証する保険であり、クリニック経営の安定を図るための有力な手段です。長期間にわたる治療が必要な場合でも、所得補償保険に加入していれば経済的な不安を軽減しながら回復に専念できます。保険料や補償額はプランによって異なるため、自身の状況に合ったものを選ぶことが大切です。
就業不能保険は、病気やケガによって一定期間働けなくなった際に、生活費やローン返済資金を補填できる保険です。生活全般を支える補償内容が特徴で、所得補償保険と併用することで経済的なリスクに対する防御力を高められます。もしクリニックの収入が途絶えても、固定費の流出は止まらないため、そのリスクに備えることは極めて重要です。
この保険に加入することで、長期間にわたって収入が得られない場合でも、クリニックの運営を継続するための資金を補填できます。保険会社によって補償内容や条件が異なるため、加入前に十分な比較検討を行なうことが大切です。
開業に際して金融機関等から開業資金を調達した場合、万が一契約者である医師に不幸があったら家族に負債が残されてしまいます。
多くの金融機関では開業資金調達の際に加入できますが、もし取り扱いがなければ民間の保険会社で同じ内容の保険に加入しておく必要があります。
前述の団体信用生命保険は、開業資金を借り入れる際の重要なリスクヘッジとなります。クリニックの開業には多額の資金が必要で、その多くの金融機関からの借り入れに頼るケースが一般的ですが、この保険は契約者が返済期間中に死亡または高度障害状態に陥ってしまった場合に、保険金で借入金を完済する仕組みとなっています。万が一の場合でも、家族やクリニックに返済の負担を残すことはなくなります。
特に高額な建築費用や設備投資を行なう場合は、この保険が果たす役割が非常に大きくなります。実際に、金融機関の融資条件として団体信用生命保険への加入を求められるケースも多いようです。事前に条件をしっかり確認し、借入金額や自身のライフプランにあった保険内容を選ぶことが重要です。
もうひとつ、決して疎かにできないのが医療訴訟への備えです。近年はさまざまなメディアによる過熱報道に加え、インターネットの普及で一般市民が医療情報を得やすくなったことも相まって、医療訴訟の件数は増加傾向にあります。万一の訴訟に備えて、開業医用の医師賠償責任保険は必ず加入しておきましょう。
すでに勤務医用の医師賠償責任保険に加入しているドクターも多いと思いますが、その対象はあくまでも医師本人の賠償のみです。開業医用の医師賠償責任保険はスタッフによる医療事故も保障されるので、開業時には必ず変更の手続きを行ないましょう。
医療事故や医療施設の事故が起こった場合、開業医や組織としての医療法人が負うべき損害賠償責任を総合的に補償するのが医師・医療施設賠償責任保険です。加入者はもちろん、スタッフの医療行為に起因する事故であっても、加入者が使用者として責任を問われる場合は補償の対象になります。
医療施設の事故について、もう少し具体的に説明しましょう。加入者の医療施設や設備の不具合、もしくはスタッフの不注意などが原因で患者さんや付き添い者、お見舞いの方など第三者に身体的な損害を与えたり、財物を損壊したりした場合に保険金が支給されます。施設が提供した飲食物による食中毒事故も補償の対象です。ただし、名誉棄損や秘密漏洩に伴う損害賠償責任や、美容医療に対する損害賠償責任は補償の対象にならない場合があります。
いずれにしても、保険会社によって保障内容が異なりますので、加入時にはしっかり内容を確認しましょう。