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医療モール・医療ビルでのクリニック開業

「今の時代、開業するには不安な要素が多い…」そう考えるドクターに知ってもらいたいのが、比較的ローリスク・ローコストで開業が可能な「医療モール」です。さまざまな診療科のクリニックが入居する医療モールは、患者さんだけではなく開業医にとってもメリットが期待できます。

さまざまな医療モール(医療ビル)のタイプ

医療モールにはさまざまなタイプがあり、クリニックのコンセプトやターゲットとする患者層などによって選択の幅が広がります。

戸建てクリニックの集合体「医療ビレッジ」

同じ敷地に複数の戸建てクリニックが集まったタイプの医療モールを「医療ビレッジ」と呼びます。戸建ては設計やデザインの自由度が高く、クリニックのコンセプトを反映させやすいのが大きなメリット。他のクリニックとの共用で駐車スペースを確保できるのが一般的で、車社会の北海道では患者さんに重宝されるでしょう。

利便性が高い「商業施設併設型」の医療モール

近年よく見られるのが、同じ施設内に食料品店や衣料品店などもテナントとして入っている「商業施設併設型」の医療モールです。患者さんの生活動線上にクリニック受診がプラスされるイメージで、買い物ついでに受診できるため利便性に富んでいます。付き添いの方が待ち時間を過ごすためにも便利です。

テナントすべてがクリニックや調剤薬局の「医療ビル」

商業施設併設型とは異なり、ビル1棟すべてのテナントにクリニックや調剤薬局が入っているタイプの医療モールです。もともとクリニックがテナントとして入ることを前提に設計されている場合は、相応の電気・給排水設備に加えてバリアフリーにも対応しているため、一般的なビルより内装工事も容易です。

マンション低層部に医療モールを設置する「レジデンス併設型」

マンション低層部に複数のクリニックが入り、マンション住人のかかりつけ医というポジションを狙った医療モールです。地域住民の目につきやすい設計や屋外看板の設置などで外部からの視認性を高めるなど、マンション住人以外の患者さんにも利用してもらえるような工夫も必要です。

慢性疾患の患者さんを集めやすい「オフィス併設型」

オフィスビル内に複数のクリニックが入るタイプの医療モールで、同じビルで働く人たちのほか、立地やアクセス性が良ければ広いエリアからの集患も期待できます。仕事の合間に通院できるので、繰り返し通院が必要な生活習慣病やアレルギーなど、慢性疾患の患者さんが集まりやすい傾向にあるようです。

「診診連携」が医療モール化した「医療ドミナント」

すでに開業しているクリニックに隣接した土地に異なる診療科のクリニックが開業し、それが繰り返されることで実質的に医療モール化したエリアを「医療ドミナント」と呼びます。そこではクリニック同士の連携、つまり「診診連携」によって医療モールと同じ機能が構築されており、患者さんの利便性も高くなります。

医療モール増加の背景にあるもの

近年は医療モールが増加しており、その背景には少子高齢化社会の進行に伴うさまざまな要因があります。

「地域包括ケアシステム」を担う医療モール

入院ベッド数が多すぎると不必要な入院医療が増え、高齢者医療費の増大につながるため、わが国の医療行政は入院ベッド数の削減を推進してきました。そして、積極的な治療を要しない患者さんや長期間の療養を要する慢性期の患者さんは、在宅医療や介護施設に移行してもらうという政策方針も明確にされています。中核病院は急性期医療が必要な患者さんを受け入れる一方で、クリニックは地域における「かかりつけ医」の役割を担う、そういった機能分化はますます進んでいくでしょう。

国は、団塊の世代がすべて後期高齢者となる2025年を目処に、高齢者が個々の尊厳を守られながら自立して生活できるよう、「地域包括ケアシステム」の構築を目指してきました。そこで注目されたのが医療モールのあり方です。

医療モールは複数の診療科と専門性の高い医師が集う、いわばひとつのユニットです。お互いに連携して通院または在宅医療を受け持ち、介護施設とも連携することで、今後ますますニーズが高まっていく地域医療を担うことになります。このように、地域包括ケアシステムの構築に寄与することの期待もあって、医療モールは増加しているのではないでしょうか。

都市部の医師過剰と高齢者人口の増加

少子高齢化が進むということは、人口の減少、つまり患者さんの数も少なくなっていくということです。その反面、人口あたりの医師の数は増え続け、特に都市部では医師が過剰な状態になっています。もちろん、開業を目指す医師も多いはずです。そのような背景があることも、都市部で医療モールが増えている要因のひとつでしょう。

また、全体の人口は減るといっても、割合でみると都市部の高齢者人口は増加が予想されます。そこで、高齢者に特有の生活習慣病だけではなく、さまざまな疾患を抱える患者さんに対応するためには、他の開業医などと緊密な連携を図っていかなければなりません。そういう面では、身近な専門医や多職種と物理的にも連携しやすい医療モールが注目されるのも理解できます。

医療モールに期待される役割

医療モールに期待されているのは、総合的な初期医療、そして専門的な医療を提供する拠点としての役割です。アクセス性の高いエリアにさまざまな診療科のクリニックが集結していれば、患者さんは1回の外出で複数の診療科を受診できます。また、大学病院や基幹病院のような専門的な医療を受けられるクリニックが医療モールにあれば、患者さんの利便性につながるだけではなく、大学病院や基幹病院側もより重篤な患者さんに対応する余裕が生まれるため、お互いにメリットがあります。

専門が異なる医療スタッフが集まり、連携を通じて新たなコミュニケーションの場を生み出すのも医療モールならではの役割といえるでしょう。

医療モールのメリット・デメリット

改めて、医療モールでの開業がもたらすメリット・デメリットを考えてみましょう。

メリット

集患力が高い

医療モールは基本的にアクセス性を重視したエリアにオープンされるので、利便性の面から多くの患者さんの来院を見込めます。また、医療モールは複数のクリニックが入るので認知度も高く、単独で開業するよりも効率的な集患が期待できるでしょう。

特に医療モールのオープンは地域住民からも注目を集めるため、そこで開業予定の医師にとっても一大イベントです。地域に向けた健康相談会やセミナーなど、医療モールならではの共同集患を企画しやすいのも大きなメリットです。

独自の広告活動が不要

単独で開業する場合は、ウェブサイトの制作や折込チラシの配布、フリーペーパーへの入稿など多くの広告活動を展開しなければなりません。必要なコストも決して少なくなく、開業時の大きな経済的負担になる可能性もあります。

しかし、医療モールであれば基本的に運営会社が開業を告知してくれますし、前述のとおりモールそのものが地域住民に注目されるため、高い広告効果が期待できます。開業時の集患コストを大幅に削減できるでしょう。

看板や駐車場のコストを分担できる

医療モールの看板や駐車場は、入居するクリニックや調剤薬局で共有するケースが多くなります。必要コストを分担できるので、経済的な負担も軽くなるでしょう。場合によっては待合スペースやトイレ等も共有できるので、そこで浮いたコストを医療機器・設備など患者さんの利益につながる部分に投資しやすくなるのも医療モールのメリットです。

他の診療科と連携しやすい

医療モールは同じ場所に異なる診療科の専門医が集まっているので、医師同士で患者さんを紹介し合ったり、情報を交換したりすることが容易に可能です。患者さんの状態によっては他の診療科での治療や専門医の意見が必要になりますが、相談に乗ってくれる医師が身近にいれば、安心して自分の専門分野に集中できるでしょう。

デメリット

他のクリニックとの関係維持に注意が必要

大学医局や勤務先での人間関係から解放されるために開業を目指す医師もいます。確かに医療モールには基本的に医師の上下関係は存在しませんが、中には治療方針が合わない医師もいるでしょう。それでもお互いに協力していけるような人間関係を構築しなければ、医療モールで診療を続けていくのは難しいかもしれません。

医療モールでの開業を検討する際は、他のクリニックの医師に関する情報を集めておき、医療モール全体での連携が可能かどうかを調べておくことをおすすめします。

医療モールの決まりに縛られる

単独でクリニックを開業するなら、立地も規模もデザインもすべて自分の意向に合わせて決められます。一方、医療モールは複数のクリニックが入居する前提で設計、運用されているため、内装や動線といったハード面のほか、標榜する診療科目や診療時間などの面で細かい制約を受ける可能性があります。医療モールの企画運営会社の担当者と事前に入念な打合せを行ない、後になって「話が違う」ということのないように注意しましょう。

まとめ

医療モールでの開業を検討する場合は、上記のようなメリット・デメリットを十分に理解し、その上で開業の準備を進めていくことが重要です。コスト面だけではなく「診診連携」の重要性にも着目し、入居するクリニックが協力し合って地域住民の健康をサポートしていけるのが理想的な医療モールのあり方だといえるでしょう。