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北海道で精神科・心療内科クリニックを開業して成功させるためには、どのような点に考慮して計画を立てるべきでしょうか。
このページでは、精神科・心療内科クリニック開業のポイントを解説していきます。開業を検討しているドクターはぜひ参考にしてください。
現代は認知症患者さんの急激な増加、精神科病床の削減による通院治療への移行など、精神科・心療内科クリニックにとって外部環境は追い風になりつつあります。また、企業におけるメンタルヘルス対策への取り組みも進んでいることから、働く人の心の病気と向き合うというコンセプトでの集患も可能でしょう。
精神科や心療内科は、基本的に身体の手術やリハビリテーションが不要なので、高額な医療機器を導入することもありません。患者さんが利用するスペースとしては診察室、待合室、カウンセリングルームがあれば十分です。したがって、他の診療科と比べると少ない初期投資で開業が可能で、その後の運営コストも抑えやすいと考えられます。
精神科や心療内科は、患者さんが増えても収入が伸びない場合があります。なぜなら、精神科領域の診療報酬は人数や回数ではなく、時間に基づいて算定するケースが多いからです。
精神科・心療内科クリニックで実施されることが多い「通院精神療法」を例に挙げると、60分以上が5,400円、30分以上が4,000円、30分未満が3,300円と料金が診療報酬で決められています。保険診療以外でも、自費のカウンセリングなどは時間によって料金を計算することが多いようです。
医師1人での対応には限界がありますので、臨床心理士などの専門スタッフを活用しない限り、患者数増加による収入の見込みが立ちにくいといえるでしょう。
精神科や心療内科を受診する患者さんは、通院していることを他人に知られたくないのが普通です。したがって、人通りの多い駅前のビル1階などは開業に向いていません。できれば表通りから少し離れた建物で、上のフロアのテナントがいいでしょう。
仕事をしている患者さんの多くは、会社と自宅の中間駅近くのクリニックに通院される傾向にあります。北海道の都市部であればJRや地下鉄駅から徒歩圏内の立地であれば集患に有利だといえそうです。
また、精神科や心療内科の患者さんはインターネットでクリニックを探すことが多いようです。内科系クリニックに比べて患者層が若いこともその理由でしょう。サイト検索で上位表示されるようなSEO対策はもちろん、患者さんが見て理解しやすいこと、そして「この先生に相談したい」と感じてもらえるようなホームページづくりが重要です。
他の診療科もそうですが、特に精神科や心療内科は患者さんのプライバシーに配慮する必要があります。まず立地ですが、前項で触れたとおり目立つ場所は基本的にNGです。クリニックモールで他の診療科と同じフロアに入るのも同様です。
予約制が導入されていなかったり、待合室に仕切りパネルがなかったりするのはプライバシーが守られているとはいえません。こうしたクリニックも患者さんに敬遠されてしまうでしょう。
ありがちなのが、信頼できる院外薬局との連携がうまくいかないケースです。薬局主導で開業した場合に経営権が薬局寄りになってしまったり、薬局がクリニックの理念に寄り添わずに患者さんが離れてしまったりすることは決して少なくありません。
47都道府県の中でも圧倒的な面積を誇る北海道は、その広さゆえ人口の一極集中化と地方への分散、そして地域の医療格差という大きな課題を抱えています。こうした背景は、北海道内でクリニックの新規開業を志すドクターにとって見過ごせない問題でもあります。
精神科・心療内科は患者さんが受診していることを知られたくないという側面があるため、通院が目立ってしまう人口過疎地に新規開業するケースはほとんどありません。必然的に開業予定地は都市部またはその周辺に限られるでしょう。このあたりの事情は、北海道も他の都府県と変わりません。
ただし、目立たずに通院できるということは、アクセス性とはまったく別の問題です。患者さんの通院手段はどうなのか、冬期の積雪が通院に影響するのか、寒冷地ならではの視点も持って開業候補地を絞り込んでいかなければなりません。
精神科・心療内科という特殊性、北海道という地域特性の両方を踏まえて開業の準備を進めていくのは、専門的なノウハウが欠かせません。ここは経験豊富な開業コンサルタントの出番です。精神科・心療内科の開業支援を得意とするコンサルタントも存在するので、プロの視点でのアドバイスを受けながら開業に有利な物件を探しましょう。
北海道には約2,700のクリニックが存在し、うち約200が精神科系クリニックです(2021年11月現在)。人口10万人あたりの精神科系クリニック数は全国平均の5.65施設に比較して3.75施設と、北海道は不足傾向にあります。
ただし、このデータはあくまでも北海道全体の平均値です。前述のとおり医療格差が顕著な北海道の場合は、エリアによって大きな偏りがあると考えられます。
診療科によっては、集患数からみた開業のベストシーズンがありますが、精神科や心療内科はそれほど季節変動を重視しなくてもいいでしょう。むしろ開業にあたって考えるべきは、それまでの勤務先を円満退職できる時期を選ぶことかもしれません。
開業してからも元の勤務先との連携がうまくいけば、それまで自分が診ていた患者さんも安心して引き継げます。病院や大学医局に在籍している場合は、円満退職が可能なタイミングを見極めることが開業する際の原則です。
前述のとおり、精神科・心療内科クリニックは初期投資を抑えやすい傾向にあります。医療機器も少ないので処置室や検査室といったスペースもなく、診察室も広くする必要がないため、結果として内装にかかる費用も少なくなります。北海道の都市部でのテナント開業であれば、開業資金は概ね3,000~4,000万円をひとつの目安と考えていいでしょう。狭くてもかまわないのであれば、もっと費用は抑えられるかもしれません。精神科・心療内科に特有の心理検査の器材や予約システム、オンライン診療などを導入したとしても、それほど高額な投資にはならないはずです。
年収に関しては、統計データによると精神科・心療内科における開業医の平均年収は約2,500万円となっており、診療科全体の平均よりも200万円ほど高い傾向にあります。精神科や心療内科は薬品費や医療材料といった原価や経費の割合が低いため、同じ売上でも利益率が高くなる診療科だといえるでしょう。
精神科・心療内科の開業は融資のハードルが高くなる、そんな銀行もあるように聞いていますが、事業計画がしっかりしていれば問題はありません。北海道の場合、クリニックの資金調達に限っていえば都市銀行よりも地方銀行や地元に根づいた信用金庫のほうが前向きに検討してもらえるような印象があります。
とはいえ、資金調達に必要な事業計画を医師個人で作成するのは少々難しいでしょう。信頼できる開業コンサルタントなど、専門業者に相談したほうが時間と労力の節約になります。
精神科領域の専門医資格では、日本精神神経学会が認定する精神科専門医や、日本総合病院精神医学会が認定する一般病院連携精神医学専門医などがあります。開業を志しているドクターであれば、これまでのキャリアの中で精神保健指定医の資格も取得されているでしょう。
ただ、精神科や心療内科は他の診療科から転向してくるドクターも多く、必ずしも専門医や指定医の資格がなければ開業できないというわけではありません。
これはどの診療科でも同じですが、大切なのはしっかりした経営理念や事業コンセプトを確立すること、それと同時に開業時期を考えていくことです。
物件の選定は早いに越したことはありませんが、どんなに遅くても開業の1年前には決めたいところです。テナント開業であれば、少なくともそのくらいの準備期間が必要だと心得ましょう。
開業時期が決まれば、具体的な診療方針や開業プランを組み立てていく作業に入ります。
経営理念や事業コンセプト、物件が決まれば、次は具体的なプランの検証に移っていきます。
内装のプランに関しては、改修工事にかかる期間を考慮すると開業の半年前には資金調達の目処を立てておく必要があります。ちなみに、精神科や心療内科の場合は奇抜な内装デザインは避け、落ち着いた雰囲気にしたほうがよさそうです。症状の重い患者さんの診察を想定している場合は、スタッフの安全も考えて複数の出入口を設けることも検討します。
地域の医師会や行政への事前相談もこの時期です。必要に応じて開業コンサルタントに相談することも検討しましょう。
前述のとおり、精神科や心療内科の場合は大型の医療機器を導入することはほとんどありません。ただし、電子カルテは精神科に特化したタイプもあるので、クリニックの診療内容に合った製品を選定すべきです。
内装に関しても、患者さんとスタッフの動線などに配慮しながら決めていきますが、経験のある開業コンサルタントや内装業者と綿密な打合せを行なった上で決めたいところです。
開業の3カ月くらい前になったら、スタッフの募集や採用面接などに取りかかります。他の診療科とは異なり、臨床心理士など精神科・心療内科に特有の職種も採用を検討しなければなりません。また、精神科・心療内科は電話応対のスキルが重要になりますので、受付スタッフの研修に要する期間も考慮しておきましょう。
クリニックを開業するためには所轄の保健所や厚生局への届出が必要です。不備があると予定していたスケジュールでの開業ができなくなる場合もあるので、十分に注意しなければなりません。心配であれば、開業コンサルタントなどのプロに任せたほうが安心です。
精神科や心療内科のクリニックは、開業してすぐに多くの患者さんが来院するケースはまれです。
とはいえ、初期投資の返済や運営コストの負担が重くのしかかることも少ないと思われますので、じっくり構えて日々の診療を丁寧かつ誠実に行なっていきましょう。そうすることで少しずつ患者さんの信頼を集め、やがて多くの患者さんが訪れるクリニックになっていくはずです。