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異動・転勤が多い

大学医局に所属している勤務医であれば、避けて通れないのが人事異動に伴う転勤です。数年ごとの異動はざらで、その都度ライフスタイルが大きく変わることも珍しくありません。望まない異動のせいでストレスを抱えたり、今後のキャリアに不安を覚えたりする医師も多いのではないでしょうか。

異動・転勤は断れる?断れない?

結論からいうと、勤務医の人事異動は断れないことのほうが圧倒的に多いです。もし異動を断ると、他の医師や異動先の病院、患者さんにまで影響が及ぶ可能性があります。現実問題として、スムーズな人事や配置転換のためには医師一人ひとりの事情や希望まで考慮していられない、ということもあるでしょう。医局に所属している限り、人事異動を断るのは難しいと覚悟しておくべきです。

では健康上の理由や家庭の事情を理由に異動を断れるか、といえばそれも微妙なところで、結局のところは医局側の考え方次第だといえます。ただ、仕事に影響を及ぼすほどの病気を患っているような、よほどの理由でなければ異動は撤回されないと思われます。

医師の異動・転勤が多い理由

医師の教育・育成のため

医師の異動や転勤には、教育や育成といった側面もあります。同じ病院に長く勤めていると同じ同僚と一緒に同じような患者さんを担当し続けることになり、どうしても知識やスキルが偏ってきます。異動や転勤があるとさまざまな臨床の現場を経験することにもつながり、それによって新しい知識やスキルも取得できるはずです。

また、異動や転勤は新たな同僚やスタッフ、患者さんとの出会いにもなります。医師としてのキャリアに必要な人脈の構築、対人スキルの向上なども期待されていると思われます。

地方や僻地の医師不足を解消するため

大学医局が地域医療や僻地医療を支えているという構造が存在することも、異動や転勤が多くなる原因のひとつです。

医局に所属する医師が派遣される関連病院は、都市部の場合もあれば遠隔地の場合もあります。多くの医師は都市部の勤務先を希望するので、地方や僻地では医師が不足がちです。そこで医局が人事権に基づいて医師を派遣し、そういった医療機関の体制を維持しているのです。異動に対する医師個人の事情や希望が入り込む余地は少ないといえるでしょう。

そのほか病院側の事情

医局側だけではなく、病院側の事情で人事異動がなされる場合もあります。主な理由として、医師の顔ぶれを固定化させないため、医師同士の勤続年数やキャリアのバランスを取るため、空きポストを埋めるため、単に人手不足を解消するためなどが挙げられます。

また、一部の医師だけに負担がかかっているような病院では、それを解消するために人事異動で勤務医をローテーションさせることもあります。

医局人事に関する基礎知識

異動の時期は4月・9月が多い

医局人事での異動は年度替わりの4月がもっとも多く、次いで9月が多いようです。もちろん医局によってそれ以外の時期に異動がある場合もあり、急な医師の欠員が出たら臨時の異動もあるでしょう。

人事異動が決定される時期も医局によって異なりますが、引き継ぎも考慮して約半年前、遅くとも3カ月前には決定されるようです。

若手医師は異動の頻度が多い

一般的に若手の医師は移動が多く、多くの医療機関で経験を積むためとはいえ、中には半年から1年で次々に勤務先が変わるようなケースもあります。中堅からベテラン層になると異動の機会は減少し、ようやく腰を据えて勤められる、といった声も聞かれます。

とはいえ、医局に所属している以上は完全に異動がなくなることはないでしょう。特に近年は医局に所属する医師が減る一方で医師が集まりにくい医療機関も多く、ある程度のキャリアを積んでも繰り返し異動を命じられる医師も少なくありません。

異動先を選ぶことはできない

基本的に異動先は医局が決定し、自身で選ぶことはできません。ある程度は希望を受け入れてもらえるかもしれませんが、あくまでも参考程度に過ぎないと思っておいたほうがいいでしょう。さすがに医師個人の都合で関連病院のポストを空けるわけにはいきません。

医局に所属する医師に対して公平に異動を命じるか、それぞれの事情に配慮するかは医局の方針次第です。また、異動人事は教授や医局の上層部の考え方で決まるので、ある種の傾向が出てしまうことも多いようです。

異動・転勤のメリット

キャリアパスを形成しやすい

若手の医師は「専門医の資格を取得したい」「大学病院で専門的な研究をしたい」など、それぞれキャリアの目標を持っています。その目標に必要な経験が得られる勤務先であれば、異動や転勤がそのキャリアパスを形成するための機会といえるでしょう。

目標とは関係のない勤務先を指定される場合もありますが、いずれは希望するキャリアパスを進めるように医局も調整してくれる可能性はあります。

さまざまな経験を積める

キャリアパスの形成にもつながることですが、異なる医療機関で働くことでさまざまな経験を積めることも異動や転勤のメリットです。

同じ診療科であっても、受け入れる患者層や同僚の違いで得られる経験には大きな差があります。以前の勤務先ではできなかったことに携われば、それが医師としての実績となり成長につながるでしょう。

異動・転勤のデメリット

収入が減る可能性がある

医局の人事異動とはいえ、形式的には医師が現在の勤務先を自主退職することになります。新たな勤務先では新人として雇用されるので、ボーナスのカットや有給休暇のリセットなどもやむを得ません。異動に際して引っ越しが必要な場合は、その費用もかかるでしょう。

また、給与がダウンする可能性もあります。特に民間病院から公立病院に異動する場合は大幅に年収が下がることもあり、生活水準を下げなければならないかもしれません。何より影響が大きいのが退職金です。退職扱いであれば勤続年数もリセットされるので、異動が多いと生涯で受け取れる退職金の総額も大きく減ってしまいます。

自身・家族の生活に大きな変化が生じてしまう

勤務先が変われば生活にも影響があります。特に引っ越しが必要なほど遠方への異動であればなおさらでしょう。子どもの学校や塾、親の介護などの事情を考慮してくれる医局もありますが、基本的には人事異動が優先されます。

そもそも、異動の可能性があるという状況自体がライフプランに大きな影響をもたらします。知らない土地に飛ばされるかもしれない、年収がダウンするかもしれない、単身赴任になるかもしれない、そんな不確定要素が多いと、長いスパンでの人生設計は難しくなるでしょう。

イチから人間関係を築く必要がある

新しい勤務先では改めて人間関係を構築していかなければなりませんが、それに悩む医師も少なくないようです。医師同士の関係、医師と現場スタッフとの関係が上手くいかなければ相応のストレスになるので、着任当初は意識してコミュニケーションを取り、友好的な対応を心がけることが大切です。

たとえ人間関係が上手くいかなくても、いずれは次の異動があるからと割り切ることもひとつの考え方かもしれません。

今の職場より激務になる可能性がある

医局人事による異動や転勤には、人手が足りない病院への人材派遣という側面もあります。そのため、現在の勤務先よりも忙しい病院に配属されるケースが多くあるようです。結果として激務となり、心身ともに疲れ切ってしまう医師もいます。

異動・転勤がつらいときの解決策

上司に相談する

繰り返される異動や転勤がつらくなってきたら、まずは上司に相談することをおすすめします。「このままだと厳しい」というストレートな気持ちを伝えるだけでもいいでしょう。それで状況がすぐに改善するほど簡単ではありませんが、疲れ果ててある日突然医局を辞めるような事態になるよりはずっとましです。

とはいえ、医局の立場や関連病院との関係、所属している医師の数が変わらない以上、上司に相談しただけで環境が劇的に変わる可能性は低いといえます。

退局・転職する

前述のとおり、異動には医局の事情があるため基本的には断れません。ですが、異動を繰り返すことで理想とする働き方ができなくなってしまったり、身体的にも精神的にも負担が限界に近づいたりしている場合に無理を続けるのは考えものです。医局を辞めて自身の意思で転職することも選択肢のひとつです。

特に30代くらいまでは頻繁に異動が繰り返されますが、たとえば「専門医の資格を取るまでは我慢する」と自分の中で期限を決めて働くのもいいでしょう。その時が来たら改めて自身に合った勤務先を探せばいいのです。

開業する

異動や転勤の可能性から完全に解放されたい、その思いを確実に叶えてくれるのが開業という手段です。当然ながら職場が変わることがないので、人生設計のしやすさは勤務医時代とは格段に変わります。パートナーを正社員として雇用することもできますし、家を買ったり、子どもの進学先を決めたりする際にも転勤がないというメリットが効いてくるでしょう。

もちろん、勤務医時代よりも年収がアップする可能性が高いというのも開業の大きなメリットです。

医師の異動・転勤に関するまとめ

医局によっても異なりますが、おおむね1~2年ごとに異動というパターンが多く、中には引っ越しが必要な転勤も少なくありません。医師派遣による地域医療のバックアップ、医師のキャリアアップという名目もある以上、医局の人事異動はある意味仕方のないことではあります。

では望まない異動や転勤を受け入れ続けなければならないのかといえば、決してそんなことはありません。医師として働いていく上で譲れない部分を守ることは大切です。理想とするキャリアのためにどのような働き方をすべきか、今一度じっくりと考えてみてはいかがでしょうか。