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当然ながら、クリニックは開業すれば必ず成功するというわけではありません。開業前の準備段階で綿密なリサーチを行なう必要があり、そこで欠かせないのが診療圏調査です。 ここでは診療圏調査の重要性や実施の手順、診療圏調査の信ぴょう性を高めるポイントなどについてお伝えします。
クリニックの開業候補地をマーケティング調査することです。その場所で開業した場合、1日あたりどの程度の患者数を見込めるのかを推計。患者数が多ければエリアのニーズが高く開業に向いている場所です。少なければエリアのニーズが低く開業には向いていないと判断します。ただし、クリニックの安定経営のために必要な患者数は診療科によって大きく異なります。
クリニックを開業しても、期待したほど患者さんが来てくれなければ、最悪の場合は廃業に追い込まれるかもしれません。開業前に十分な診療圏調査を行なうことが非常に重要です。
人口や医療資源の地域格差が著しい北海道は、クリニック開業前の綿密な診療圏調査やマーケティングを特に重視すべきエリアです。
たとえば北海道の人口は札幌市への一極集中が顕著で、それ以外は広域に分散している傾向があります。医療資源もそれに合わせるように偏在しており、深刻な医療資源不足が問題となっている地方自治体も少なくありません。
こうした背景を踏まえてクリニックの開業を検討する場合、競合先の存在や将来的な人口推移を見込んで開業候補地を絞り込むためには診療圏調査が必須といえるでしょう。
まずは調査の前段階として、対象となる開業候補地を決めていきます。 この時点では候補地をひとつに絞り込む必要はありません。想定しているクリニックのコンセプトに合わせて複数の候補地を挙げたほうが、より有利な開業地が選択できるでしょう。 開業候補地だけではなく、別に注目しているエリアや調べたいエリアを選ぶことも可能です。
調査の対象となる開業候補地が決まったら、次に診療圏を設定します。患者さんがどの範囲から来院するのかを把握するためですが、設定には大きく2つの方法があります。
診療圏を適切に設定しなければ、推計患者数を正確に算出することができません。一般的なクリニックでは同心円の距離を1~1.5キロメートル程度に設定しますが、競合先が多ければ距離も短くなります。地域住民の生活動線も考慮する必要があるでしょう。 また、郊外での開業を想定している場合は、同心円の距離だけで推計患者数を算出するのは困難です。たとえば最寄り駅から距離があり、地域住民の移動手段が車メインだとしたら、同心円の距離の車での到達時間の両方を設定すべきです。
診療圏調査で推計患者数を算出するためには、診療圏における競合先の状況を把握する必要があります。診療圏内の患者数を競合先の数で按分すればクリニックの推計患者数がわかる、といった単純な話ではありません。なぜなら競合先の集患力を加味しなければならないからです。 競合先の集患力を知るためには、実際に現地を訪れるのがもっとも有効な方法です。医師の評判はどうか、設備は充実しているか、どのような患者層か、自分の目と足で確かめてみることをおすすめします。
診療圏内の人口数は自治体が公表している統計情報で把握できますが、重要なのは世帯特性です。高齢者が多いエリア、ファミリー層が多いエリア、単身世帯が多いエリアなど、世帯特性を把握することで集患の見込みを立てられます。 たとえば、小児科のクリニックを開業するのであればファミリー層が多いエリアが有利になるでしょう。慢性疾患や認知症など、専門的な医療を展開するのであれば高齢者が多いエリア、住民の高齢化が予想されるエリアが理想的といえます。
高度で専門的な治療が必要な患者さんは別として、クリニックは基本的には自宅や最寄り駅からの距離で選ばれることが多いでしょう。したがって、地理的な特性も推計患者数に反映させる必要があります。前述の「競合先の集患力」も忘れてはいけません。
診療圏の設定についてお伝えしてきましたが、診療科によって設定すべき広さは異なります。いくつかの診療科を例に挙げ、診療圏を設定する際のポイントを考えてみましょう。
一般内科は、体調を崩したらすぐに受診したいと考える人が多いため、自宅や勤務先から近いクリニックが選ばれる傾向にあります。定期的な通院が必要な場合でも同じではないでしょうか。 したがって、移動手段が電車や地下鉄という都市部なら駅から徒歩2~3分以内、郊外なら車で5~10分以内という設定がおすすめです。
耳鼻科や精神科など特定の病気に対応する診療科は急を要するケースが少なく、すぐに受診したいという患者さんはそれほど多くありません。とはいえ、来院間隔が短い上に何度も通うことになる場合も多いので、遠すぎると選ばれにくくなるのも事実です。 都市部ならクリニックから半径1キロメートル前後、郊外なら半径2~4キロメートル前後が診療圏の目安といえます。
産婦人科や泌尿器科など、来院間隔が空きやすい診療科は診療圏を広めに設定しましょう。都市部なら駅から徒歩3分前後、郊外なら車で10~20分前後を目安にしてもよさそうです。 ただ、クリニックの専門性によって診療圏の設定は変えるべきです。たとえば不妊治療のような専門特化型のクリニックであれば診療圏を広く設定できますし、評判次第ではさらに遠方から患者さんが来院してくれる可能性も高くなるでしょう。
診療圏調査によって算出される推計患者数は、あくまでも「推計」です。いざ開業してみたら「こんなはずではなかった…」という可能性もゼロではありません。 そうならないためには、診療圏調査の信ぴょう性を高めるしかありません。以下にそのポイントを紹介します。
一般的な診療圏調査では、患者数の推計に国勢調査の人口データを使用します。このデータは居住地における人口、いわゆる「夜間人口」のため、住宅地に開業する場合の診療圏調査には最適なデータといえます。一方、駅前やオフィス街に開業する場合に夜間人口のデータを使用して診療圏調査を行なっても、正確な推計患者数は算出できません。「昼間人口」のデータを使用した診療圏調査を行なう必要があります。 昼間人口は、夜間人口に仕事をしている人の移動を計算に入れた統計データです。仕事をしている人の数は勤務先のエリアに計上されているので、駅前やオフィス街における診療圏照査には欠かせないデータです。 このように、診療圏調査に使用する人口データは開業予定地やターゲットにする患者層に応じて変えていくことが重要です。
診療圏調査で示される推計患者数は、診療圏内の患者数を競合クリニックの数で按分して自院の患者数を算出するのが基本です。しかし、現実的には競合クリニックの集患力には差があり、単純に按分しただけの推計患者数が正確とはいえません。 前述のとおり、医師の評判や設備の充実度、患者層など、競合先の状況を実際に現地で確認することが大切であり、机上の調査だけでは重要な情報を見落とすこともあります。開業してから「実は想定外のライバルがいた」ではお話になりません。 また、診療時間や専門医資格、駐車場の有無など、集患に関連する競合先の情報も可能な限り収集し、自院の有利な点・不利な点を推計患者数に反映させるようにしましょう。
同じような人口総数の診療圏でも、年代や世帯構成に違いがあります。そこを明らかにできるのが国勢調査の「人口・世帯特性表」です。診療圏調査の結果で同程度の推計患者数が算出された場合、より自院の診療科やコンセプトに合った開業地を選択するために、そして開業後の集患対策を検討する際にも役立ちます。 たとえば、小児科であれば子育て世帯が多いエリアを第一選択肢にすべきですし、高齢者が多いエリアであればその世代をターゲットにする診療科の開業が有利になる、ということです。 診療圏調査を行なう際には人口・世帯特性表にも注目し、診療科やコンセプトに合った特性を持つエリアを絞り込んでいきましょう。
クリニックを開業すると長年にわたって同じ場所で診療を続けていくことになるため、診療圏調査は現時点における人口や世帯特性だけではなく、将来的な変動にも着目しなければなりません。開業候補地の人口は増加していくのか、それとも減少していくのか、そこをしっかり踏まえて開業地を決めるべきです。 また、今後の都市計画にも注意しましょう。交通網の整備や再開発、大型商業施設オープンなどの計画がある場合は、昼夜の人の流れや生活動線が大きく変わっていく可能性があります。
該当する条件を設定するだけで診療圏調査ができる、手軽で操作性に優れた便利なアプリも存在します。しかし、アプリの診療圏調査で得られる結果はあくまでもデータのみに基づいたものであり、競合先に関する鮮度の高い情報を求める場合には不十分と言わざるを得ません。 そう考えると、診療圏調査を手がける開業コンサルなど専門の企業に依頼すべきです。ただし、専門の開業コンサルでもソフトのみで診療圏調査を行なう場合があります。実際に現地を訪れて競合先の調査まで実施してくれるのかを事前に確認しておきましょう。 診療圏調査の結果は、開業地の決定だけではなく開業後の安定経営にも影響する重要なデータです。外部に依頼する場合は、信頼できる経験豊富な開業コンサルを選びたいものです。
クリニックの開業地は直感や雰囲気、不動産価格といった要素だけで決めてはいけません。診療科やコンセプトに合った医療ニーズが存在するエリアで、どれだけ多くの患者数が見込めるか、それが開業の成否を分けるのです。適切な診療圏調査を実施することがいかに重要か、ご理解いただけるのではないでしょうか。 開業コンサルの中には、無料でもしっかりした診療圏調査を行なってくれるところもあります。開業後に後悔しないよう、信ぴょう性の高い診療圏調査の結果に基づいた開業準備を進めていきましょう。