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クリニックの開業にあたって必要不可欠なのが事業計画書の作成です。
開業資金の算出や資金調達、収支計画といったお金の面はもちろん、クリニックのコンセプトや方針など、どんな医療を提供していくのかという「未来予想図」としても重要な意味を持ちます。いわば、開業を志すドクターが理想の医療を実現するための基礎となるツールです。 ここでは、事業計画書が必要となる具体的な理由や作成のポイントをまとめました。
開業資金をすべて自己資金でカバーできるケースは少なく、通常は金融機関からの融資を検討するでしょう。その場合は事業計画書を提出して開業後の経営について説明することになります。現実的な投資計画に加えて、いかに実現性の高い収支計画・返済計画が立案できているかがポイントです。もちろん数字だけではなく、地域のニーズやクリニックの将来性、経営者としてのスタンスや自信を自分自身の言葉で語れることも重要です。
「これなら融資できる」と金融機関に判断される事業計画書を作成することが、クリニック開業を実現させる第一歩です。
経営の存続に必要な資金が足りなくなることを「資金ショート」といいます。 クリニックを開業しても、すぐに経営が軌道に乗るわけではありません。ある程度の運転資金を見込んでおかなければ、経営が立ち行かなくなる可能性も。 事業計画書を作成しておくのは、こうした運転資金のショートを防ぐ意味もあります。開業に必要なイニシャルコストだけではなく、どのくらいランニングコストがかかるのかを客観的な視点で見積もっておくのです。その際には、もし思うように患者さんが来なかった場合も考えて少々厳しい条件を設定しておくことが大切です。
クリニックの開業はあくまでもスタートに過ぎず、安定した経営を実現・継続させてこそ成功といえるものです。計画どおりの利益を上げられず、開業後ほどなくして閉院というケースもわりと多いようですが、その最大の原因は「見通しの甘さ」だと思われます。
しっかりした事業計画書を作成して現実的な資金計画、収支計画を立てておけば、開業後の実際の数字と照らし合わせることで経営が安定に向かっているかどうかを判断できます。想定した計画と差がある場合、どのくらいの差があるのか、どこに原因があるのかも事業計画書をもとに検証できるはずです。
事業計画書の作成にあたっては、まず開業資金の見積もりが必要です。 物件は戸建てなのか、テナントなのか、医療モールなのか、どんな医療機器を導入するのか、内装にどのくらい費用をかけるのか、そういった諸々を積算していきます。クリニックの認知度を高めるための広告宣伝費やコンサルティングの費用も開業資金です。 ただ、経験がなければ各々の相場観がわからないと思われます。可能な限り相見積もりを取るほか、理想を追求するあまり過剰投資にならないよう心がけてください。
次に経営に必要な支出を算出します。支出は大きく固定費と変動費に分けられ、前者はスタッフの人件費や賃借料、リース料、水道光熱費などが対象となり、後者は医薬品費や診療材料費、検査外注費などが対象になります。
固定費の抑制も収支の安定につながるため、クリニックのオープン時はスタッフの人数や医療機器の設置を最小限に抑えたほうが無難です。人員や設備への投資は、経営が軌道に乗ってからでも十分間に合います。
クリニックの年間収入は「1日の患者数」「年間診療日数」「患者さん一人あたりの平均単価」を掛け合わせることで算出できます。
診療日数や平均単価はある程度のコントロールが可能ですが、予想が難しいのが患者数です。診療圏調査の結果を参考に、1年目はどのくらいの患者さんが来てくれるのか、何年目で目標患者数に到達するのかなどを細かく試算していきます。その際には、想定どおりに患者数が伸びなかった場合の見積もりも作成しておくことが大切です。
開業資金、支出、収入の見積もりが揃ったら、毎月の資金繰り表を作成しましょう。毎月の支出と収入、返済額を計上すると、一定の月末残高を残すためにどのくらいの運転資金を開業時に用意すべきかわかるはずです。
医療機器の過剰投資などで資金繰りが上手くいかなくなるケースもありますが、詳細な資金繰り表を作成しておけばそういった事態も避けられるはずです。
前述までの数字的な計画をひと通り作成できたら、最後にクリニック開業までのスケジュールを決めることで事業計画書は完成に近づきます。 開業準備には物件の選定から内装工事、医療機器の選定、行政の手続き、スタッフの採用など実に多くのミッションがありますが、それぞれを開業日から逆算してスケジュールを組んでいかなければなりません。どれかひとつが滞っても開業できなくなってしまうため、確実かつ綿密なスケジューリングが求められます。
もっとも避けたいのは、事業計画書の内容が根拠なく楽観的になってしまうことです。特に収支計画の見通しが甘いと、予定していた患者数にほんの少し及ばないだけでも資金ショートを起こしてしまう可能性があります。それ以前に、見通しの甘い計画では開業資金の融資審査が通らないでしょう。そこを金融機関は見逃しません。 開業資金の融資をスムーズに受けるために、そして開業後に無理のない経営を続けていくためにも、収入は厳しく見積もっておいたほうが無難です。
設備にどのくらい投資するかは悩ましい問題ですが、開業のビジョンと投資額とのバランスを冷静に判断することが肝要です。開業する医師の多くは勤務医時代と同等の設備を求めがちですが、それが本当に必要なのか、費用対効果の視点で投資の可否を判断しなければなりません。
オーバースペックな医療機器の導入など、過剰な設備投資が経営の足かせになることは明らかです。開業当初は必要最小限の設備に抑え、患者数の増加に合わせて段階的に充実させていくように事業計画書を作り込むことをおすすめします。
開業して間もなくはまだ患者数も少なく、収支の不安から精神的にも厳しい日々を過ごすことになるかもしれません。それでも開業時に十分な運転資金が用意できていれば、苦しいながらもそんな時期を乗り越えられるでしょう。
自己資金が豊富な場合はともかく、できれば運転資金は最大限の融資を受け、経営が軌道に乗ったら繰り上げ返済するようなプランも一手です。可能なら返済を据え置きに設定することも検討すべきです。もちろん、できるだけ支出を抑える事業計画を立案することも重要です。
前述のとおり事業計画書の作成には注意すべき点が多く、医師が独力で作成するのは容易ではありません。事業計画書の内容は融資の審査にも大きく影響するので、そこは経験豊富な開業コンサルなど専門家に相談したほうが安心でしょう。
そして事業計画書は資金調達だけではなく、開業後の経営を安定させるためにも重要な意味を持ちます。単に作成を開業コンサルに丸投げするのではなく、医師自身の理想と覚悟、自信が反映された内容であることが事業計画書の大前提なのです。
冒頭でクリニックの事業計画書を「未来予想図」と称しましたが、一方では開業と安定経営を実現させるための羅針盤ともいえ、その作成は決して簡単ではありません。自分一人だけで作成を試みる医師もいないことはありませんが、特に収支計画や資金繰りといった数字的な部分は専門的な知見がなければ難しいと思われます。
実現性・信ぴょう性の高い事業計画書を作成するには、やはり専門家のサポートを受けることが近道だといえるでしょう。