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診療報酬改定とは、保険医療機関が提供する医療行為や医薬品等の公定価格が見直されることです。診療報酬は医療サービスにあたる「本体」と、医薬品や医療材料にあたる「薬価等」に分かれており、前者は2年ごと、後者は毎年改定が実施されます。
診療報酬改定は病院やクリニックの医療提供体制や医療の質の観点からも重要な意味がありますが、改定の結果が保険医療機関の収入に直結するため、その影響を軽視することはできません。
わが国では医療費の増加が大きな問題となっていますが、それを抑制し、持続可能な医療システムを実現するためには診療報酬改定が必要です。
有用性の低い医療サービスの削減や効率的な医療の提供を促進することが、診療報酬改定の意義であり、目的でもあります。
診療報酬改定は厚生労働省によって行なわれますが、透明性を確保するため、同省に設置されている社会保障審議会(社保審)で基本方針が検討され、厚生労働大臣の諮問機関である中央社会保険医療協議会(中医協)で詳細を検討することになっています。
2024年度改定にあたっては、2023年12月11日に開催された社会保障審議会の医療部会において、以下の4点の基本方針が示されました。
今回の改定では、クリニックに大きな影響が予想される以下の項目が注目ポイントとなりました。
特に内科系クリニックで注目される生活習慣病管理料は、療養計画書の作成やサインなど事務業務の増加に加え、患者の通院回数や検査回数の減少など診療のスタイルが大幅に変化する可能性もあります。
また、ベースアップ評価料は申請の煩雑さや患者の理解、将来的な雇用計画を考慮すると届出や算定を躊躇するクリニックも少なくないようです。
いずれにしても、今回はクリニックにとってインパクトの大きい項目が多く含まれる診療報酬改定だったことには間違いありません。
改定の議論の中では、電子処方箋の導入の動向も注目されました。電子処方箋の普及率はまだまだ低いのですが、オンライン資格確認のネットワークを利用するので、インフラは整っているといえます。電子処方箋を発行する医師と、それを受け取る調剤薬局が増えれば必然的に進んでいくでしょう。
ただし、導入にあたっては、補助金があったとしても医師がメリットを感じられなければなりません。電子処方箋の発行には手間がかかりますし、患者にもメリットはまだ十分に理解されていないのが現状です。
今回の改定では医療DXの推進が掲げられていますが、院内への書面掲示が必要となる施設基準については、原則としてインターネット上でも閲覧可能な状態にすることが求められています。クリニック開業時にホームページを作成する場合は、抜け漏れがないように注意しなければなりません。
ホームページへの掲載が必須となる施設基準について、代表的なものを紹介します。
この加算を算定する場合は、オンライン資格確認を行なう体制を有していること、患者の受診歴や薬剤情報、特定健診情報など必要な診療情報を取得・活用して診療を行なうことを、院内掲示だけではなくホームページにも掲載する必要があります。
この加算を算定する場合は、医薬品の供給状況等を踏まえた上で一般名処方の趣旨を患者さんに十分説明することを、院内掲示だけではなくホームページにも掲載する必要があります。
情報通信機器を用いた診療(オンライン診療)の初診では、向精神薬を処方しないことをホームページに掲載する必要があります。
今回の改定で新設されたこの加算を算定する場合は、オンライン資格確認を行なう体制に関する事項に加えて、質の高い診療のため十分な情報を取得・活用して診療を行なうことをホームページに掲載する必要があります。
今回の改定は、国が推進してきた2025年に向けた地域包括ケアシステム完成の前年に実施されたため、クリニックに大きなメリットはありませんでしたが、総仕上げのような位置づけになっています。したがって、クリニックの医師は地域包括ケアシステムの意味を改めて考えなおすべき。開業エリアでの立ち位置をしっかり見直して、自院が地域に対して何ができるのかをアピールして患者を取り込んでいくことが大切です。
そして、今回の改定は間違いなく「連携」がキーワードです。しかし、現場のクリニックの医師からは「何をしたらいいのかわからない」という声も聞かれます。まずは、何かあったときに頼れる病院がどこなのかを明確にすべきです。そして医師同士のつながり、病院の地域連携室や地域のケアマネとのつながりを大切にすることです。その関係性の構築が、地域包括ケアシステムの一員になるということではないでしょうか。
地域包括ケアシステムの中で他の医療機関や介護施設と連携することで、算定できる診療報酬は多くあります。そのひとつひとつの点数を拾い上げていくことがクリニックの収益につながります。
地域包括ケアシステムと聞くと在宅医療の領域だと考える医師もいますが、どんな診療科でも無関係ではありません。たとえば皮膚科クリニックであれば在宅療養患者さんの褥瘡(床ずれ)などに対応したり、形成外科クリニックであれば在宅療養患者さんの巻き爪などに対応したりできます。地域包括ケアシステムの連携には是非とも参加すべきです。
今後は後期高齢者の増加に伴い、医療的なニーズも増えていきます。しかし、データとしては外来患者数が減少していることから、在宅医療のニーズが増えていることがわかります。クリニックによっては、在宅医療への転換も視野に入れるべきでしょう。
また、新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけとしてオンライン診療が急速に普及しつつあります。患者にも潜在的なニーズがあり、オンライン診療は患者目線で見るととても便利です。とはいえ、あまり簡便になりすぎるのも医療上の問題があるので、対面診療と上手く組み合わせることが大切です。