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2026年度診療報酬改定の詳細とクリニックへの影響

2026年度診療報酬改定は、2026年2月13日に中央社会保険医療協議会から答申され、診療報酬本体は同年6月1日から施行されています。今回の改定では、物価高騰や医療従事者の賃上げへの対応が大きな柱となったほか、医療DX、地域における医療機関の連携、かかりつけ医機能など幅広い見直しが行われました。クリニック経営に直接影響する項目も少なくありません。

ここでは、2026年度診療報酬改定のなかから、クリニックが押さえておきたいポイントを解説します。

診療報酬改定の意義と目的

診療報酬改定とは、保険医療機関が提供する診療や検査、処置などの公定価格である「診療報酬」を定期的に見直すものです。医療技術の進歩や人口構造の変化、国の医療政策などを反映しながら、必要な医療を持続的に提供できる仕組みを整える役割があります。

2026年度改定では、物価高騰や賃金上昇、人手不足など、医療機関を取り巻く経営環境への対応が特に重視されました。また、今回は改定率を2026年度・2027年度の2年度平均で示す新しい方式が採用されています。診療報酬本体や材料価格に関する主な改定は2026年6月1日に施行され、すでに新しい点数による運用が始まっています。

2026年度改定の基本方針と改定率

2026年度診療報酬改定では、次の4つが基本的な視点として示されています。

  • 物価や賃金、人手不足など医療機関を取り巻く環境の変化への対応
  • 2040年頃を見据えた医療機関の機能分化・連携と地域医療の確保、地域包括ケアシステムの推進
  • 安心・安全で質の高い医療の推進
  • 効率化・適正化を通じた医療保険制度の安定性・持続可能性の向上

なかでも今回の改定を特徴づけているのが、賃上げと物価高騰への対応です。診療報酬本体の改定率は2026・2027年度の2年度平均で+3.09%とされ、2026年度は+2.41%、2027年度は+3.77%と段階的に引き上げられます。2年度平均の+3.09%の内訳は、賃上げ分+1.70%、物価対応分+0.76%、食費・光熱水費分+0.09%、2024年度改定以降の経営環境悪化に対する緊急対応分+0.44%、その他の改定分+0.25%、効率化分▲0.15%です。

これまでの診療報酬改定は、医療提供体制や個別技術の評価見直しが前面に出ることも少なくありませんでした。2026年度改定では、医療機関のコスト増そのものに診療報酬で対応する姿勢が明確になったことが大きな特徴です。

2026年度改定がもたらすクリニックへの影響

2026年度改定では、クリニック経営に直接関係する項目も数多く見直されています。特に確認しておきたいのは次の4点です。

  • ベースアップ評価料の増点
  • 物価対応料の新設
  • 生活習慣病管理料の見直し
  • 機能強化加算へのBCP策定要件の追加

それぞれ収入面だけではなく、届出や院内運用の変更を伴う項目があります。算定できる点数だけを見るのではなく、自院が施設基準や運用要件を満たしているかを確認することが重要です。

ベースアップ評価料の増点

2024年度改定で新設された外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)は、2026年度改定で大幅に引き上げられました。2024年度は初診時6点、再診時2点、訪問診療時は同一建物居住者等以外の場合28点でしたが、2026年6月から2027年5月までは、新たに賃上げを行う施設について初診時17点、再診時4点、訪問診療時79点となっています。

一方、一定の施設基準を満たして継続的に賃上げを実施している医療機関はさらに高い評価となり、同期間は初診時23点、再診時6点、訪問診療時107点です。したがって、「新規算定か継続算定か」だけで区分されるのではなく、継続的な賃上げを行っている施設としての要件を満たすかどうかで点数が異なる点に注意が必要です。

また、2026年度改定に伴って届出様式も変更されています。従来からベースアップ評価料を算定していたクリニックも含め、自院の届出内容と実際の賃金改善が新制度に合っているか確認しておきましょう。

物価対応料の新設

2026年度改定では、医療材料費、光熱水費、委託費などの物価上昇に対応するため、新たに「物価対応料」が設けられました。医科クリニックでは、2026年6月から初診時2点、再診時等2点、訪問診療時3点を、基本診療料などに併せて算定します。特別な施設基準の届出を前提とする加算ではないため、幅広い保険医療機関に直接影響する改定です。さらに特徴的なのが、当初から2段階の引き上げが予定されている点です。2027年6月以降は初診時4点、再診時等4点、訪問診療時6点となり、2026年度の倍の点数になります。

医療機関のコスト上昇を診療報酬で直接補う仕組みが設けられた点は、2026年度改定を象徴する変更のひとつといえるでしょう。

生活習慣病管理料の見直し

生活習慣病管理料は、2024年度改定でも大きく見直されました。高血圧症、脂質異常症、糖尿病を主病とする患者について、特定疾患療養管理料の対象から外し、生活習慣病管理料(Ⅰ)・(Ⅱ)を中心とした疾病管理へ移行したことは、内科系クリニックの診療体制に大きな影響を与えました。

2026年度改定では、さらに診療の質を担保する観点から、生活習慣病管理料(Ⅰ)について、原則として必要な血液検査等を少なくとも6カ月に1回以上行うことが要件に追加されました。他の医療機関で行った検査結果を参照できる場合などは例外となりますが、その場合も検査結果を診療録に記録する必要があります。

一方、療養計画書については患者の署名が不要になるなど、事務負担を軽減する見直しも行われています。生活習慣病患者を多く診療するクリニックでは、検査漏れが生じないよう、電子カルテ上で最終検査日を把握するなどの運用整備が必要です。

機能強化加算へのBCP策定要件の追加

かかりつけ医機能を評価する「機能強化加算」では、2026年度改定から新たに業務継続計画(BCP)の策定が施設基準に加わりました。厚生労働省の「医療機関(災害拠点病院以外)における災害対応のためのBCP作成の手引き」などを参考に、自院の実情に応じた計画を策定するとともに、計画に基づく必要な措置を実施し、定期的に見直すことが求められます。

ただし、2026年3月31日時点ですでに機能強化加算を届け出ていた医療機関には経過措置があり、2027年5月31日まではBCP要件を満たしているものとみなされます。言い換えれば、既存の届出医療機関も2027年5月31日までにはBCPを整備しておく必要があります。単に書類を作成するだけではなく、災害時の連絡体制、診療継続の方法、職員の役割分担、必要物資などを整理し、実際に機能する計画にしておくことが重要です。

電子処方箋の導入の動向

電子処方箋は、処方・調剤情報を電子的に共有し、重複投薬や併用禁忌などを確認できる仕組みです。2024年当時は普及率の低さが課題でしたが、その後導入は進んでいます。厚生労働省が公表している「電子処方箋の施設別導入状況」によると、2026年1月時点で、オンライン資格確認等システムを導入している施設のうち、電子処方箋の導入率は医科診療所25.3%、薬局88.9%でした。さらに厚生労働省は、2026年5月時点で薬局への導入率が9割を超えたと公表しています。医療機関側では薬局ほど普及していないものの、導入環境は着実に広がっています。

2026年度改定では、電子処方箋の発行体制が新設された電子的診療情報連携体制整備加算1の要件のひとつとなりました。電子処方箋は単独のDX施策ではなく、マイナ保険証や電子カルテ情報共有サービスなどと組み合わせて医療DXを評価する仕組みの一部になっています。

詳しくは、後述の「電子的診療情報連携体制整備加算」をご確認ください。

参照元:厚生労働省「電子処方箋の普及拡大に向けた取組について」(https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001674531.pdf

ホームページに掲載が必要な項目

診療報酬の施設基準には、院内への掲示だけでなく、自院のホームページなどで一定の事項を公表することを求めるものがあります。2026年度改定では医療DX関連の加算が再編されたほか、オンライン診療についてもウェブサイトへの掲載要件が追加されています。算定要件を満たしていても、必要な掲示・公表を忘れていれば施設基準上の問題になりかねません。

改定時には点数や届出書だけでなく、ホームページ上の掲載内容もあわせて確認することが重要です。

電子的診療情報連携体制整備加算

2026年度改定では、従来の「医療情報取得加算」と「医療DX推進体制整備加算」が廃止・再編され、新たに「電子的診療情報連携体制整備加算」が設けられました。マイナ保険証による情報取得を基本としながら、電子処方箋や電子カルテ情報共有サービスなど、より高度な医療DXへの対応状況を段階的に評価する仕組みです。初診時は月1回、加算1が15点、加算2が9点、加算3が4点で、再診時は月1回2点です。加算1では共通要件に加えて、電子処方箋を発行できる体制、電子カルテ情報共有サービスなどを活用できる体制等をすべて備えることが求められます。加算2は追加的なDX要件の一部を満たす場合、加算3は共通の基本要件を満たす場合という段階的な評価になっています。

施設基準には、明細書の発行状況や医療DXに関する体制などを院内の見やすい場所に掲示し、自院のホームページ等でも公表することが含まれます。旧加算を算定していたからといって自動的に新加算へ移行するわけではないため、届出とホームページの双方を確認する必要があります。

一般名処方加算

一般名処方加算は2026年度改定でも継続されていますが、点数は一般名処方加算1が10点から8点、加算2が8点から6点へ見直されました。また、バイオ後続品があるバイオ医薬品を一般名処方した場合も新たに評価対象となっています。一般名処方の趣旨などについては、引き続き院内掲示やホームページ等での公表が必要です。

情報通信機器を用いた診療

オンライン診療を行う医療機関では、初診から情報通信機器を用いた診療を行う場合に向精神薬を処方しないことを、引き続きウェブサイト上に明示する必要があります。2026年度改定ではこれに加え、「オンライン診療の適切な実施に関する指針」の遵守状況を確認するチェックリストについても、ウェブサイトへの掲載が施設基準に加わりました。

掲示・公表要件のチェックリスト

2026年度改定後は、ホームページに古い加算名や旧制度の説明が残っていないかも含め、掲載内容を一度整理しておくことをおすすめします。

  • 電子的診療情報連携体制整備加算:明細書発行や医療DXに関する体制など、施設基準で求められる事項を院内およびホームページ等に掲示・公表しているか
  • 一般名処方加算:医薬品の供給状況等を踏まえ、一般名処方の趣旨について患者に説明する旨を掲示・公表しているか
  • オンライン診療:情報通信機器を用いた初診では向精神薬を処方しないことをウェブサイトに掲載しているか
  • オンライン診療のチェックリスト:「オンライン診療の適切な実施に関する指針」の遵守状況を確認するチェックリストを掲載しているか
  • 旧加算名の削除:「医療情報取得加算」「医療DX推進体制整備加算」など、2026年度改定で廃止・再編された制度の古い案内が残っていないか

診療報酬改定時には、届出や院内掲示を優先するあまりホームページの更新が後回しになりがちです。算定している項目とサイト上の表示を定期的に照合する仕組みをつくっておくと安心です。

2026年度改定のキーワードは「賃上げ・物価」と「連携」

2026年度診療報酬改定を読み解く上で、まず押さえておきたいキーワードが「賃上げ」と「物価」です。医療機関は一般企業とは異なり、原材料費や人件費が上昇しても、それを自由に診療価格へ転嫁することができません。今回、ベースアップ評価料の増点や物価対応料の新設が行われた背景には、こうした公定価格制度特有の経営環境があります。厚生労働省も2026年度改定の重点課題として、物価・賃金上昇や人手不足への対応を明確に掲げています。

一方、もうひとつ変わらず重要なのが「連携」です。2040年頃に向けて生産年齢人口が減少し、高齢者の複合的な医療・介護ニーズが増えるなか、すべての医療機関が単独で完結する医療を提供することは難しくなります。病院とクリニック、クリニック同士、医科と歯科、医療と介護など、それぞれの機能を組み合わせながら地域全体で患者を支えることが求められています。開業時にも、自院だけの診療内容ではなく、「地域のなかで誰と連携し、どの役割を担うのか」という視点がこれまで以上に重要になるでしょう。

連携のメリット

医療機関同士の連携には、患者にとって必要な医療へつながりやすくなるだけでなく、クリニック側にもメリットがあります。たとえば、自院では対応できない専門的な診療を適切な医療機関へ紹介できる体制があれば、患者の安心感につながります。また、逆に専門領域を明確にして周辺医療機関との関係を築けば、紹介患者の増加も期待できます。

2026年度改定でも、糖尿病患者について眼科や歯科への受診を促すなど、診療科を越えた連携が一層重視されています。単に患者を「紹介する・される」関係ではなく、地域で不足する機能を互いに補完するネットワークを開業時から意識しておくことが大切です。

今後の医療ニーズと2027年度の追加対応

今後のクリニック経営では、高齢化や人口減少による患者構成の変化を踏まえて、自院の地域でどのような医療ニーズが増えるのかを見極める必要があります。高齢患者が増えれば、複数の慢性疾患を抱える患者への継続的な管理、在宅医療、介護事業者との連携などの重要性が高まります。一方、地域によっては人口そのものが大きく減少し、従来と同じ外来患者数を前提とした経営モデルが成り立ちにくくなる可能性もあります。

また、医療DXへの対応も避けて通れません。マイナ保険証、電子処方箋、電子カルテ情報共有サービスなどは、それぞれ独立した仕組みではなく、診療情報を医療機関間で共有する基盤として一体的に整備されつつあります。開業時には現在必要な設備だけでなく、数年先の制度変更に対応できるシステム構成を検討することも重要です。

さらに、2026年度改定は2027年度までを見据えた2段階の設計になっています。2027年6月からは物価対応料が初診4点、再診4点、訪問診療6点へ倍増する予定です。一方、既存の機能強化加算届出医療機関に認められているBCP要件の経過措置は2027年5月31日で終了します。

したがって、2026年6月の改定対応が終わったからといって作業は完了ではありません。自院の算定状況、ホームページの掲示内容、電子処方箋などのDX対応、BCPの策定状況を確認し、2027年6月の追加対応まで見据えて準備を進めることが重要です。