公開日: |更新日:

クリニックと廃業・倒産問題

医師が独立してクリニックの開業を目指す場合、もっとも心配なのは「経営がうまくいくだろうか」「失敗しないだろうか」ということでしょう。つまり廃業・倒産のリスクです。

確かにクリニックは一般企業や個人事業主に比べ、廃業・倒産のリスクは低いと思われます。とはいえ、もちろんリスクがまったくないというわけではありません。高い理想を掲げて新規に開業・成功するクリニックがある一方で、廃業せざるを得ないクリニックがあるのも事実です。

ここでは、クリニックの廃業・倒産の原因から開業を目指すドクターが意識すべきことを考え、そしていざというときにコンサルタントがどのようにサポートしてくれるのかを紹介します。

クリニック廃業・倒産の実態

廃業と倒産はいずれも事業の終了を意味しますが、そのかたちは似て非なるものです。

クリニックでいえば、廃業(法人解散)とは経営状態の悪化ではなく自主的な判断で閉院することです。したがって、借入金や買掛金などの負債がなく、財務内容が健全であることが前提です。

一方、債務超過などが原因で経営が困難になって閉院するのが倒産です。主に債務の完済能力の面で廃業とは大きく異なります。

クリニック廃業率は増加傾向にある

民間調査団体のデータによると、2021年における医療機関(病院、クリニック、歯科医院)の休廃業・解散は対前年53件増の567件に上り、過去最高水準となっています。そのうちクリニックが471件と大半を占め、過去5年間のデータを見てもクリニックの休廃業・解散件数は増加傾向にあります。

同じ医療機関でも病院は組織が大きく、後継者候補が存在している場合も多いのですが、クリニックは小規模で後継者がいないケースが目立ちます。そうなると開業した医師が自分の代で廃業するので、事業承継等が進まない限りは開業医の高齢化によって休廃業・解散件数はますます増えていくでしょう。また、新型コロナウイルスの感染拡大に対する設備の拡充や人材確保が大きな負担となり、休廃業・解散の時期を早めざるを得ないケースも想定されます。

※参照元:(pdf)帝国データバンク「医療機関の休廃業・解散、倒産の17倍超」(https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p220111.pdf

倒産してしまうクリニックも増えている

新型コロナウイルス感染拡大による医療機関の受診控えが話題となりましたが、感染状況がピークを越えた2022年度もクリニックの倒産は増えています。民間調査団体のデータによると、2022年度のクリニックの倒産(負債1,000万円以上)は前年度比10.0%増の22件で、過去20年間で最多だった2009年度に並びました。

倒産の原因を順にみていくと、コロナ禍が直接的、間接的に影響した経営不振による倒産が6件、開業医の体調不良や高齢に伴う倒産が5件、診療報酬の不正受給などコンプライアンス違反による倒産が4件ということです。

※参照元:東京商工リサーチ「2022年度の「診療所」倒産、過去最多の22件「コロナ関連」は減少、後継者難や不正発覚が増加」(https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1197674_1527.html

廃業・倒産の理由

後継者がいない

さまざまな業界において「後継者不足」が問題になっていますが、それは医療業界でも同様です。

厚生労働省の調査によると、2020年時点で医療機関における医師の平均年齢は50.1歳、クリニックに絞ると平均年齢は60.2歳とのことです。これは一般企業であれば定年が見えてくる年齢であり、事実、クリニックの廃業・倒産は高齢化した医師の後継者がいないのが大きな理由のひとつです。

※参照元:(pdf)厚生労働省「令和2(2020)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/20/dl/R02_1gaikyo.pdf

マネジメントスキルがない

もともと医師は医療のプロではあっても、経営のプロではありません。しかし、開業医イコール経営者でもあるため、相応のマネジメントスキルを求められるのは当然です。

資金繰りの見通しが甘かったり、スタッフの人間関係をコントロールできなかったりすると、それはクリニック存続の危機を招きます。そこでマネジメントに強い右腕的スタッフや優秀なコンサルタントの存在がなければ、廃業・倒産が見えてくるといっても過言ではありません。

外部要因

クリニック内部の運営がうまくいっていたとしても、何らかの外部要因が経営に影響を及ぼす可能性があります。たとえば医師の急病や、テナントビルの閉鎖などもマネジメントでコントロールできない要因のひとつです。そして近年では新型コロナウイルスの世界的流行が挙げられるでしょう。

クリニックに限らず、あらゆる事業にはいつどんなトラブルが起こるかわかりません。とはいえ、常日頃から安定経営を心がけて不測の事態に備えておけば、廃業・倒産のリスクを低くできるはずです。

クリニックの廃業・倒産が及ぼす影響

廃業に要するコスト

クリニックの廃業には相応のコストがかかります。大きなところでは建物の取り壊しや原状回復工事の費用、医療機器の処分費用、スタッフの退職金などでしょうか。このほか、医薬品や医療消耗品の処分費用や行政手続き費用なども加味すると、少なくとも数百万円の費用を見込んでおく必要があります。

廃業に際して借入金残債の清算などが必要な場合は、前述の費用を捻出するのが困難になるかもしれません。

地域医療への影響

クリニックの廃業・倒産は、それまで通院していた患者さんがかかりつけ医を失うということです。他にクリニックがない郊外のエリアなら、地域住民にとっても大きなマイナスになるでしょう。

また、クリニックが地域の介護保険サービス事業所などと連携していた場合、閉院が地域医療そのものに大きな影響を及ぼす可能性があります。

スタッフの雇用問題

クリニックの閉院に際してスタッフは解雇されることになりますが、この場合は閉院の30日前までに解雇予告を行なわなければなりません。

やむを得ない事情で解雇予告ができない場合は、賃金の最低30日分以上の金額を支払う必要があります。場合によっては、新たな勤務先を紹介する必要もあるでしょう。

患者情報の保管義務

医療法上、医療機関の管理者にはカルテを5年間、レントゲンフィルムを3年間保管する義務があります。クリニックを閉院してもカルテを継承しない限り保管義務は残るため、適切な保管場所を確保しなければなりません。

クリニックを廃業・倒産させないためには

先に上げた廃業・倒産の理由を踏まえ、クリニックを存続させるためのポイントを考えてみましょう。

マネジメントスキル・マーケティングスキルの向上

やはり何といっても欠かせないのはマネジメントスキルです。前述のとおり、開業医イコール経営者であることを強く自覚しなければなりません。医療そのものだけではなく、運営方針や資金繰り、人事等について常に考えを巡らせ、経営に関する知識も学び続けるようにしたいものです。

そして、マーケティングスキルも同じくらい重要です。勤務医の時代は待っていれば患者さんが来てくれたかもしれませんが、開業医となればそういうわけにもいきません。自分が経営者である以上、クリニックを存続できるように集患についても考える必要があります。

医師だけでマーケティングに取り組むのは難しい部分もあるので、そこは専門的な知見を持つコンサルタントに相談するのも一手です。

優秀なスタッフの確保と良好な人間関係づくり

資金面、設備面に不安がないとしても、人間関係に問題があればクリニックの経営はいとも簡単に傾いてしまいます。優秀なスタッフ、診療方針に共感してくれるスタッフの確保はクリニック成功に不可欠な要素ですが、反対に問題のあるスタッフの存在や人間関係のストレスは患者満足度・職員満足度の悪化に直結し、廃業・倒産のリスクを高めます。したがって、スタッフの確保と人間関係づくりも開業医の重要なミッションなのです。

優秀なスタッフが長く勤められるような良好な人間関係を築くために、開業医自らが能動的にアクションを起こしていきましょう。

後継者の確保

ある程度ベテランの域に入ってからの開業で、かつ将来的に事業承継を想定しているならば、後継者も早めに探しておくことをおすすめします。医師としての引退が間近になってからでは遅いかもしれません。多くの患者さんを抱えて経営も安定しているのに、後継者が見つからないばかりに廃業というのは、地域医療への影響を考えても避けたいところです。

もし後継者が見つからなければ、M&Aを生業にする企業に相談してみるのもいいでしょう。単に閉院するよりコストを抑えられるほか、譲渡利益を得られるというメリットもあります。

先を見据えた計画性

クリニックに開業に際し、理念やコンセプトと並んで重要なのが計画性であり、それは事業計画に明確に現れます。将来を見据えた実現性の高い事業計画でなければ、クリニックの成功はありません。行き当たりばったりの計画では廃業・倒産が目に見えています。

特に資金繰りやマーケティングは事前の綿密な検討を欠かさず、しっかりした事業計画を策定することが成功の第一歩です。もちろん開業後も定期的に計画を見直し、収支や資金繰りが予定どおりにいっているかを細かく確認することが大切です。

クリニックの「黒字倒産」を防ぐには

「黒字倒産」という言葉を目にしても、ピンとくるドクターはそういないと思います。倒産とは業績不振で赤字になって事業を続けられなくなること、そんなイメージが一般的なので、黒字なのに倒産するというのは理解しにくいでしょう。しかし、現実に黒字でありながら倒産してしまうクリニックは出ています。

クリニックの黒字倒産とは、本業である医療で収益を上げているにも関わらず手元資金が枯渇し、経費の支払いができなくなる状況を指します。たとえば、多忙を理由に際限なくスタッフを採用したり、無計画に医療機器を導入したり、在庫量を気にせず医薬品や医療材料を購入したりすると、気づかないうちに手元資金を上回る支払いに苦しむことになります。

ここで、黒字倒産を防ぐための方策とポイントを紹介します。

入出金の予定を正確に把握する

黒字倒産が起こる要因のひとつとして、クリニックの収益構造は診療報酬が主体になるという医療の特殊性があります。診療報酬の入金は請求の2カ月後になるため、それまでに支払いが必要な金額と支払期日を確認し、手元資金を用意しなければなりません。

日々の患者数は気にしていても、お金の流れには無頓着という開業医は意外と多いのですが、いわゆる「どんぶり勘定」は論外。日次の資金繰り表を作成し、目先の入出金の予定を正確に把握することが必要です。

計画的な投資を心がける

新たなスタッフの採用や医療機器の導入は、クリニックを成長させるための投資です。ただし、無計画な投資は資金繰りの悪化を招き、黒字倒産のリスクを高めます。

人や設備への投資は先を見据えた計画に基づいて実行されるべきです。特に多額・長期的な投資を検討する場合はそのための収益目標を立て、現実的に支払いできることを確信してから実行しましょう。

適正な在庫を維持する

目の届く範囲に医療材料や消耗品がないとすぐに発注する、それを繰り返しているといつの間にか在庫が過剰になって資金繰りが悪化する場合があります。在庫を管理しやすいようにクリニック内部の環境を整え、診療が滞らない程度の適正な在庫を維持することが重要です。

正確なレセプトを作成する

日々の診療の成果は「診療報酬請求書(レセプト)」によって請求されますが、それに不備があると請求が差し戻され(返戻)、その分だけ入金が減って経費の支払いに影響する場合があります。

このような事態に備えて手元資金に余裕を持たせておくことはもちろん、正確なレセプトを作成できるように事務スタッフのスキルアップも同時に進めるとよいでしょう。

資金管理は公私を分別する

法人化していないクリニックの場合、事業主である開業医の給料は経費で計上できません。したがって、売上から原価と経費を差し引いた残りが開業医の収入になります。そのせいもあって、個人の資金とクリニックの資金をまとめて管理している開業医も多いのですが、これは資金繰りの把握を困難にする原因のひとつです。

クリニックのお金の流れを明確にするには、少なくともクリニックと個人の口座は分けたほうがいいでしょう。そして毎月一定額を個人の口座に移すなどして、公私をしっかり分別することが大切です。

開業コンサルタントと連携し廃業・倒産リスクを減らす

ここで、開業コンサルタントが関与することでクリニックのスムーズな開業・早期の安定経営を実現した事例を紹介します。

開業準備から開業後の受付業務までフォロー

札幌に近い地方都市のメディカルモールで泌尿器科・透析クリニックの開業を決めたT先生。物件は見つかったものの、開業に必要な事業計画の作成や資金調達、申請や届出についてはわからないことが多く、開業コンサルタントに支援を依頼しました。そのおかげで開業準備はトラブルもなくスムーズに進み、すべてにおいて安心できたといいます。

また、クリニックが入るメディカルモールは人口10万人ほどの地方都市で、スタッフ確保の難しさも課題のひとつでした。事実、開業後にいちばん困ったのは労務管理だったそうです。そこでも頼りになったのが開業コンサルタント。同社がメディカルモールの受付業務を担っており、患者さんがクリニックと受付を同一視していることを意識したスタッフが、医療接遇に一生懸命取り組んでいます。

スタッフを確保するのも大変な中、「受付は医療機関の顔となる重要なポジション」と考えるT先生にとって、患者さんに合わせた表情で接してくれる受付スタッフは本当にありがたい存在になっているようです。

※参照元:メディカルシステムネットワーク「開業医の声」(https://www.msnw-kaigyou.jp/voice/7785

ファミリー感があって親しみやすい開業支援チーム

ご自身の出身地での小児科クリニック開業を目指し、情報収集を始めていたI先生。インターネットで見つけた開業コンサルタントにアプローチし、担当者から希望にマッチした土地を紹介してもらいました。同社は開業前のスケジュール管理も素晴らしく、スムーズにオープンを迎えられたとのこと。困りごとは何でも対応してくれる反面、過度に干渉されることもなく、バランスの取れた関係性で支えてもらったとI先生は語ります。

同社から受けた具体的なサポートは医療機器ディーラーや医薬品卸会社の紹介、資金調達、官公庁への申請、開院前のシミュレーションなど多岐にわたりました。I先生が1人だけでやったことは何もなく、すべてにおいて開業コンサルタントが無償で関わってくれたそうです。

同社の開業支援チームはファミリー感があって親しみやすい雰囲気をつくってくれたのも、I先生が感謝している大きなポイントのようです。

スタッフを確保するのも大変な中、「受付は医療機関の顔となる重要なポジション」と考えるT先生にとって、患者さんに合わせた表情で接してくれる受付スタッフは本当にありがたい存在になっているようです。

※参照元:メディカルシステムネットワーク「開業医の声」(https://www.msnw-kaigyou.jp/voice/1096

開業後の集患に関しても全社一丸となった対応

T先生は当時42歳、ラストチャンスだと考えて開業に踏み切りました。開業コンサルタントのサポートによって資金調達や行政の手続きはスムーズに進み、予算を低く抑えることにも協力的だったので非常に助かったそうです。

オープンした整形外科クリニックは諸経費も相応にかかり、資金繰りが苦しいとまではいわないにしても、立ち上がりの収支計画がなかなかうまくいかなかったというT先生。まだ患者さんが少ない開院当初、集患に関しても開業コンサルタントからさまざまな提案を受けました。それはメディカルモール全体での健康セミナーの開催や、大きな屋外看板の設置、記事広告の制作など、会社一丸となった対応を感じさせるものでした。そのような時期を乗り越えてきた現在、クリニックの経営は安定し、分院を展開するまでに成長しています。

スタッフを確保するのも大変な中、「受付は医療機関の顔となる重要なポジション」と考えるT先生にとって、患者さんに合わせた表情で接してくれる受付スタッフは本当にありがたい存在になっているようです。

※参照元:メディカルシステムネットワーク「開業医の声」(https://www.msnw-kaigyou.jp/voice/9015

まとめ

クリニックの廃業・倒産についてさまざまな面から考えてきましたが、このページだけを見ると「クリニックの開業はリスクが高い」と思われるかもしれません。ですが、ポイントさえ押さえておけばリスクはむしろ低いのです。

クリニックを開業できるのは医師だけで営利企業等は参入できないこと、基本的に医療のニーズは無くならないこと、この2点だけでも一般企業や個人事業主に比べて有利です。開業のリスクを極端に恐れる必要はありません。とはいえ、前述のとおり廃業・倒産リスクを減らすポイントを軽視すると失敗の可能性が高くなります。計画の段階から廃業・倒産リスクを排除した準備を心がけていただきたいと思います。