公開日: |更新日:

開業しやすい診療科

開業を目指す医師にとって、専門分野が開業しやすい診療科かどうかは大きな問題。開業が失敗すればキャリアに傷がつくだけではなく、大きな負債を抱えたまま勤務医に逆戻りする羽目になるかもしれず、それだけは避けなければなりません。

ここでは開業しやすい診療科とその理由について考えてみましょう。

「麻酔科」「歯科」は特別な資格が必要になる

開業にあたっては少なくとも1つ以上の診療科を標榜しなければなりませんが、麻酔科は「麻酔科標榜医」、歯科は「歯科医師免許」の資格を取得していなければ標榜できません。逆にいえば、麻酔科と歯科以外は医師免許さえあれば自由に標榜できるということです。開業のしやすさ=標榜のしやすさと考えるなら、麻酔科と歯科以外は同じといってもいいでしょう。

とはいえ、専門分野が違う診療科を標榜するのは現実的ではありません。患者さんからの信用問題にも関わりますので、そこは常識的に考える必要があります。

年間収入が最も高いのは「眼科」「精神科」

厚生労働省の中央社会保険医療協議会が実施している「第23回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告」によると、青色申告者を含む個人の一般診療所では眼科、精神科の年間収入(損益差額)がもっとも高いという結果が出ています。

眼科はパソコンやスマートフォンの普及に伴う視力低下や眼精疲労の患者さん、少子高齢化に伴う白内障の患者さんが増加していることが大きな要因だと思われます。精神科はメンタルヘルスに関するニーズが増加していることに加え、開業に際して大きな設備投資を要しないことも高い高収入につながっているようです。

※参照元:第23回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告|中央社会保険医療協議会(https://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/database/zenpan/jittaityousa/dl/23_houkoku_iryoukikan.pdf)

増加傾向にあるのは「糖尿病内科」「腎臓内科」

糖尿病内科(代謝内科)、腎臓内科の領域でも患者さんが増加傾向にあり、医療ニーズが年々高まっています。その背景には現代人の生活習慣の変化や少子高齢化をはじめとした社会環境の変化があり、今後も急速な患者数の増加が見込まれます。

特に糖尿病内科の開業では、初期投資が抑えられるというメリットがあります。糖尿病は運動療法や食事療法、薬物療法が治療の主体となるため、高額な医療機器なども不要です。こうした面では開業しやすい診療科だといえるでしょう。

※参照元:令和3(2021)年 医療施設(動態)調査・病院報告の概況|厚生労働省(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/21/)

開業資金が少ないのは「精神科・心療内科」「在宅医療」

精神科や心療内科のクリニックは開業資金の相場が1,500~2,500万円程度といわれており、金額的には他の診療科の相場を大きく下回ります。その要因は前述のとおり、大きな設備投資を要さないことでしょう。

開業資金が少なく済むという面では在宅医療のクリニックも同様です。基幹病院や訪問看護ステーションとの連携が不可欠のため開業準備の段階からやるべきことは多いのですが、多額の設備投資が不要という意味では開業しやすい診療形態です。

主な診療科の「開業しやすさ」

内科

もっともメジャーな診療科である内科は標榜するクリニックがもっとも多く、よほど特殊な人口事情がない限り必ずニーズは存在します。ただし、だからといって内科が開業しやすいとは限りません。競合先がもっとも多いのも内科だからです。

開業に際しては綿密な診療圏調査を行ない、有利な開業候補地を絞り込んでいかなければなりません。さらに競合先との差別化も必要です。糖尿病内科や内視鏡内科など、専門性を強くアピールしていくことも成功につながるポイントです。

小児科

小児科のクリニックは少子化の影響から減少傾向にあり、小児科専門医の数も減少しているなど、競合が少ない反面で患者さんの数も多くはないというエリアが散見されます。開業のしやすさという面では悩ましい状況ともいえ、それだけに立地の選定が非常に重要です。

土地や建物などハード面では他の診療科と同じ程度の投資が必要ですが、小児科の場合は医療機器などの設備投資はそこまで高額には至らないため、初期投資の面では開業しやすい診療科かもしれません。

精神科・心療内科

世代を問わずメンタルを病む患者さんが増えている昨今、ニーズが増えているという面では精神科・心療内科は開業しやすい診療科だといえます。前述のとおり、初期投資も少なくランニングコストも低いことから収益が出やすいのも魅力のひとつです。

ただし、患者さんのプライバシーを守るため立地条件や内装、動線には十分な配慮が必要であり、それを満たす物件を見つけなければなりません。開業数も増えているので、単にメンタルヘルス専門というだけではなく競合先との差別化を図っていく必要もあるでしょう。

整形外科

高齢化社会の進行に伴い、運動器のトラブルを抱える患者さんは増え続けています。リハビリテーションに対するニーズも多いため、患者数という視点から考えると整形外科も開業しやすい診療科のひとつといえます。ただし、整形外科は診察以外でも患者さんの満足度に影響する場面は多く、医療スタッフの質やリハビリ機器の充実度などにも配慮が必要です。

そして整形外科は診療報酬がそれほど高くないため、多くの患者さんを受け入れなければ経営が安定しにくい傾向にあります。クリニック以外に整骨院や鍼灸院も競合先になるため、集患の見込みを立てるため事前の診療圏調査も十分に実施しなければなりません。

産婦人科

少子化の影響で減少傾向にあるのは小児科クリニックだけではなく、当然ながら産婦人科クリニックも同じです。ただし、若い世帯の多いエリア、出生率が高いエリアなら話は別です。さらに女性医師であれば、それだけでも開業に有利な材料となるでしょう。つまり、産婦人科の開業のしやすさは地域性、医師の性別によって大きく変わるということです。

ハード面で考えると、産婦人科は建物の外から中が見えないような設えや防音性、密封性が求められます。内装にも相応のコストがかかるため、収支とのバランスを考えながら初期投資を慎重に検討していく必要があります。

眼科

前述のとおり、眼科領域では近視や眼精疲労、ドライアイ、そして高齢者の白内障など患者数は増加傾向にあり、そういった面では開業しやすい診療科といえそうです。ただし、それなりの患者数を見込める都市部では競合先も多いので、良い条件の開業候補地があれば早めの決断が求められます。

設備投資は日帰り手術を行なうかどうかで大きく金額が変わります。ただ、白内障をはじめとした眼科の手術はドクター1人で実施可能なため利益率も高く、他の診療科よりも投資分を早く回収できるという見方もできそうです。

耳鼻咽喉科

花粉症などの影響で収支の季節変動が多い反面、高齢化社会に伴う難聴の患者さんが増加したことで経営の安定化に成功しているクリニックも多いのが耳鼻咽喉科の特徴です。初診の割合が大きいほか、患者さんの回転率も高いので利益が出やすく、集患が見込めるエリアなら開業しやすい診療科です。

アレルギー科や小児科と親和性が高い診療科のため、そうしたクリニックは競合先にも連携先にもなり得ます。そう考えると、特に事前の診療圏調査が重要な意味を持ってくるでしょう。

皮膚科

皮膚科も耳鼻咽喉科と同じく、初診の割合が高いのが特徴です。診療単価は低めですが医師1名でも回転率を上げられるので利益を出しやすく、大きな設備投資も不要のため開業しやすい診療科だといえるでしょう。昼間人口の多い駅周辺や認知性の高い医療モールなど、好立地であれば十分に採算が見込めます。

ただし、美容医療の領域になると考え方は変わってきます。高い収益性を期待できる反面、高額な医療機器の導入が必要になるため、初期投資の規模は慎重に検討しなければなりません。

クリニック開業を成功させるポイント

確かに開業のしやすさは重要なポイントですが、それだけでクリニックの経営が将来的に安定していくわけではありません。最後に、開業を失敗させないために実行すべき施策をいくつかお伝えします。

強みを分析し、差別化を図る

まずは専門特化、つまりクリニックの強みを活かして競合先との差別化を図ることです。「この症状なら、あのクリニック」といった印象を地域住民に持ってもらえると、高い集患が期待できます。また、抜きん出た専門性がないとしても、丁寧な診察やコミュニケーション、雰囲気の良さも十分に強みになります。

改めてご自身の専門分野や強みを見つめ直し、そこを重点的にアピールしましょう。

診療圏調査・競合調査を事前に行なう

開業候補地において、どの程度の患者数を見込めるのかを分析するのが診療圏調査です。開業しても患者さんが来なければお話になりませんので、正確かつ綿密な診療圏調査は開業前に欠かせない重要なプロセスです。推定患者数が多ければ医療ニーズが高く、推定患者数が少なければ医療ニーズが低いか、もしくはすでに医療機関が十分に存在するということです。

また、そのエリアにどんなクリニックがあるのか、評判はどうかなど、競合調査も徹底的に実施しなければなりません。競合先との差別化にもつながりますし、場合によっては開業候補地を再検討する必要も出てくるでしょう。

資金計画は余裕を持たせる

クリニックの開業には予期せぬトラブルも多く、何かと出費もかさむため、資金計画には余裕を持たせることが大切です。特に開業資金の多くを占める設備投資については慎重になるべきで、医療機器などを導入する際には「本当に開業当初から必要なのか」を冷静に検討しましょう。

また、経営が安定しない可能性を考慮して自己資金を残しておくのも得策です。運転資金や生活費に補填できる分を確保したうえで資金計画を立案することをおすすめします。

開業当初は人件費を抑制することが大切

クリニックの開業当初は患者数も少ないため、オープニングスタッフが多すぎると人件費が収支を圧迫してしまいます。人件費を抑制することを考えると、看護師も事務スタッフもすべて常勤で採用する必要はなく、パート採用も検討したほうがいいでしょう。

常勤での採用は、経営が軌道に乗って本当に必要なスタッフ数が明確になってからでも遅くはありません。開業当初はパート採用をメインにしておき、クリニックが黒字化してから優秀なスタッフを常勤に変えていくのも一手です。そうした仕組みはスタッフのモチベーションアップにもつながると思われます。

まとめ・診療科選びも含め、クリニック開業コンサルに相談するのがおすすめ

ここでは開業のしやすさに着目して診療科ごとの違いをお伝えしてきましたが、それ以外にも大切な要素は多くあります。あくまでも目的は開業することではなく、開業したクリニックを成功させること。そのために必要なポイントをしっかり押さえておくことが大切です。

とはいえ、さまざまなポイントに配慮しながら開業準備を進めていくのは、ドクター1人だけではなかなか難しいものです。やはり専門的な知見を持つ経験豊富なクリニック開業コンサルに相談したほうがいいかもしれません。