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クリニックの医院設計とは

クリニックの開業に向けたプロセスにおいて、後から修正が効かない部分は多くあります。特にクリニックのハード面、内装のデザインや施工に関しては、完成してから後悔しても手遅れです。

クリニックは患者さんのための空間ですから、内装は医療の視点を持つドクターが関与するのが当然。ましてや自分のクリニックですから、内装をコンサルタントや施工業者に任せっぱなしにするのは論外です。現場の声にも耳を傾けて、後悔しない医院設計を進めていきましょう。

クリニック内装の後悔エピソード

最初に、実際にあったエピソードも交えて、クリニック内装に関して後悔しがちなポイントを紹介します。

保管スペースが不十分

「電子カルテを導入するので、紙書類などを保管するスペースは小さくても大丈夫」、そう考えるドクターは多いでしょう。しかし、患者さんの疾患や診療内容によっては、紙媒体で保管しなければならない場合もあります。日々の診療において電子カルテに保管している情報だけでは足りなくなるかもしれません。いずれにしても紙書類は増えていくものと考え、ある程度の保管スペースを確保しておいたほうが無難です。

待合室から診察室の中が見えてしまう

効率的な患者動線を追求するあまり、扉をすべて開放すると待合室から診察室の中が見えてしまうというケースがありました。クリニックのエントランスから受付、診察室までの流れを患者さんがわかりやすいようにデザインすることは重要ですが、見えてはいけないエリアが見えてしまう可能性は平面図だけでは気づきにくいものです。

診察室が狭かった

これも平面図だけでは気づきにくい部分ですが、内装が完成してみたら診察室が意外と狭かったというのもありがちなケースです。健常者の視点で設計を進めると、車椅子の患者さんや妊婦さん、お子さん連れの患者さんにとって移動しにくく、ストレスを感じるスペースになってしまうかもしれません。クリニックの患者層を考慮し、広めの診察室を確保するようにしたいものです。

防音に配慮すべきだった

防音を重視していなかったために、診察室での会話が待合室に漏れてしまうケースもあるようです。診察室では病気のこと以外にも家族構成や仕事の状況などプライベートな情報が多く話され、他の人に聞かれたくない内容がほとんどのはずです。防音にはしっかり配慮しなければなりません。音漏れは遮音している素材の密度や重さが関わってくるので、そのあたりは施工業者にしっかり確認しておくべきです。

待合室が寒すぎる

特に冷え込みが厳しい北海道の冬場では、クリニックの入り口ドアが開くたびに冷たい風が吹き込み、待合室の温度が保てない場合があります。ビルテナントでエントランスが外のテラスに面しているクリニックでは、患者さんから「寒くて待合室に居られない」というクレームを受けるケースも。エアカーテンで外気を遮断するなど、外気の侵入には十分な対策が必要です。

クリニック内装の成功エピソード

クリニック内装に関して「うまくいった!」という成功エピソードも紹介します。

広い診療スペースを確保

おしゃれな設備や院長室は不要と考え、とにかく診療スペースを広く確保したクリニックがありますが、ドクターは「正解だった」といいます。広い診察室はお子さん連れの方や車椅子の患者さんも利用しやすく、何より狭い診察室と比べて安心感がまったく違います。使い勝手の面でも、病気の不安を抱える患者さんの心理的な面でも、診療スペースはできるだけ広めに設計したほうがよさそうです。

コンセントを多めに設置

予想よりも多めにコンセントを設置しておいてよかった、というクリニックもあります。後で足りなくなっても延長コードやタップで簡単に造設できますが、コード類が煩雑に絡み合うなど効率も見栄えも悪くなります。医療機器を設置する場所に限らず、ほとんどの壁面にコンセントを設置しておけば、将来的な機器の導入や移動にも不自由がなくなるでしょう。

医院設計で押さえておきたいこと

上記のエピソードから、クリニックの内装には気を付けるべきポイントが多くあることがわかります。ここで改めて、医院設計で押さえておきたいことを挙げます。

細菌やウイルスが侵入しにくい設計

クリニックにはさまざまな病気、さまざまな年齢層の患者さんが来院します。特に小さなお子さんや高齢者は免疫力が低い傾向にあり、感染対策は必須です。感染対策にはさまざまな取り組みがありますが、まずはクリニック内に細菌やウイルスを侵入させないことが第一です。エントランスでスリッパに履き替えるのか、ベビーカーの乗り入れを許可するのか、それによって消毒のためのスペース確保も検討する必要があります。

クリニックのコンセプトを反映させた設計

クリニックの開業準備を進めるにあたって、最初に診療方針やコンセプトを固めていると思います。それらが明確であればあるほど開業が成功に近づく、そういっても過言ではありません。ぜひ、そのコンセプトを設計にも反映させましょう。言葉として掲げるだけではなく、内装でもコンセプトを表現できるのが理想的です。

患者さんのプライバシーを保護できる設計

患者さんのプライバシーを保護するのは医療機関として当然のことであり、もちろん設計においてもその視点は必要不可欠です。たとえば診察室での会話が待合室に漏れてしまっては、プライバシーが保たれているとはいえません。これは個人情報保護の観点でも問題です。診療科によっては他の患者さんと同じ待合室では落ち着かない場合もあるため、間仕切りを設けるなどの配慮が望ましいでしょう。

快適な空間づくりを目指したゾーニング

医療関係者が「ゾーニング」と聞くと、院内感染対策のためにスペースを区分することを想像するかもしれませんが、設計でいうところのゾーニングは「部門別の配置」を意味します。総合病院などでは診察室から検査室に移動するだけでも一苦労というケースがありますが、小規模なクリニックで起きては困ります。患者さんにとって安心できる空間、スタッフにとって仕事をしやすい空間、双方に快適な空間づくりを目指して設計を進めていきましょう。

効率的でストレスのない動線

前述のゾーニングにも関連して重要なのが動線です。動線は単に人の動きだけではなく、必要な医療機器や衛生機器をどこに設置すべきかも考えなければなりません。患者さんが車椅子やストレッチャーで異動する場合はバリアフリー動線にも配慮が必要ですし、車椅子同士がすれ違うための十分な廊下幅も求められます。設計に際してはあらゆるシーンを想定し、効率的でストレスのない動線を見つけ出してください。

死角のないレイアウト

クリニックの設計にあたって重要なポイントのひとつに、死角をつくらないことが挙げられます。もし死角が存在すると、スタッフの目が届かないところで予期せぬトラブルや医療事故が発生する恐れがあります。たとえば受付から待合室全体を見渡せることは必須条件といえるでしょう。死角を最小化することは不審者の侵入を牽制するなど、防犯対策の一環としても必要です。

【診療科別】医院設計の違い

呼吸器内科

感染症の患者さんを受け入れることが前提となる呼吸器内科では、まず換気に着目した設計が求められます。診察室は内部からの空気の放出を防ぐ「陰圧」、逆に処置室は室内気圧を高めに設定して細菌やウイルスが侵入するのを防ぐ「陽圧」が基本となるでしょう。このような換気システムが細菌やウイルスの空気感染対策につながります。発熱している患者さんや咳がひどい患者さんのために、隔離待合室や専用の処置室の確保も検討しましょう。

循環器内科・整形外科

循環器内科や整形外科は診察前に検査を受ける場合が多いので、患者さんの移動も多くなりがちです。待合室や検査室(レントゲン室)、診察室への動線に配慮した設計が求められます。重篤な疾患を抱える患者さんや高齢の患者さんは車椅子や杖を使用することも前提に、バリアフリーに加えて廊下幅を広めに確保することも重要です。

消化器内科

内視鏡検査を行なう消化器内科では、もちろん検査室の広さや機能性も重要ですが、検査後の患者さんが身体を休めるリカバリー室の設置など快適性への配慮も求められます。検査衣に着替える男女別スペースや貴重品を預けられるロッカーを設けるなど、患者さん目線での利便性を重視した設計もおすすめです。

神経内科・脳神経外科

神経内科や脳神経外科は、対象疾患の特性上、CTやMRIなど大型医療機器の設置を前提とした設計が必要です。リハビリテーションに力を入れる場合は、リハビリ機器の設置だけではなく施設基準の要件を満たすスペースを確保できるかどうかも重要になってきます。

精神科・心療内科

患者さんのプライバシー保護が重視される精神科・心療内科は、患者さんが通院しやすいロケーションはもちろん、内装にも十分に配慮しなければなりません。待合室がエントランスから見えないか、患者さん同士の目線がぶつからない待合室になっているか、慎重な設計が必要です。患者さんの不穏行動に備えてスタッフの安全確保も重視した動線確保、監視カメラの設置なども検討しましょう。

産婦人科

産婦人科も患者さんのプライバシー保護が重視される診療科であり、入院を受け入れる場合は病棟を分娩とそれ以外の患者さんのエリアに分ける必要があります。食事も病室で摂るか、食堂を設けるかによって設計が大きく変わるため、そもそものクリニックのコンセプトに立ち返って設計を進めていくべきです。

皮膚科

皮膚科は保険診療をメインにするか、自由診療(美容医療)に力を入れるかで設計が大幅に変わります。保険診療がメインなら多くの患者さんを受け入れる必要があるため、待合室のレイアウトや動線に配慮が必要です。自由診療ならサービスの一環として、カウンセリングルームやパウダールームを充実させたほうが集患につながるでしょう。

小児科・耳鼻咽喉科

子どもの患者さんが多い診療科の場合は、キッズスペースの設置を検討すべき。お子さんが飽きずに過ごせる空間づくりは集患力にも直結します。そのほか、ベビーカーで来院しやすいように段差の解消などにも配慮が必要です。おむつ交換台を含む多目的トイレの設置も保護者の利便性が高まるのでおすすめです。

眼科

眼科クリニックの設計で重視すべきポイントは多くありますが、まずは目の問題を抱える患者さんの立場に立った「視覚的バリアフリー」を意識することです。動線だけではなく、照明機器の明るさや設置する位置などにも配慮する必要があります。

まとめ

医院設計には診療科や規模、予算などによってさまざまなスタイルがありますが、何より大切なのは「クリニックの診療方針やコンセプトが反映された設計であること」です。そこを追求していくことで、後悔のない内装のデザインや施工につながっていきます。

信頼できる設計事務所は、理想的なクリニックの開業に欠かせないパートナーともいえるのです。