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日本社会全体に深刻な影響を及ぼすとされている2025年問題、それは医療業界も例外ではありません。特に医療機関の経営においては、医師不足や高齢化社会の進行に伴う患者数の増加など、具体的な問題が挙げられています。これからクリニックを開業しようとする医師にとっても、経営の未来を左右する重要なテーマです。
ここでは、2025年問題がクリニックの経営にどのような影響を与えるのか、その対策としてどのような手段があるのかを考察します。
医師不足は日本の医療の現場で以前から指摘されてきた問題ですが、2025年以降はさらに深刻な問題として浮上するでしょう。特に地方では医師不足が著しく、医療提供体制の維持が困難になる可能性があります。
いわゆる「団塊の世代」に属する医師の多くが2025年頃の引退を予定しているといわれ、日本全体の医師数が大幅に減少することが予測されます。この問題は、特に地方の医療提供体制に大きな影響を与えるでしょう。後継者が見つからないために閉院を余儀なくされるクリニックが増えると、地域の医療提供体制は弱体化してしまいます。
医師の養成には長い時間がかかるため、現行の制度では急増する医療ニーズに対応することは困難です。特に都市部に医師が集中し、一方で地方には医師が定着しにくいという「医師偏在」の問題が深刻化しています。このような状況下で、新規医師を地方に配属するための奨励金制度や、地方での研修を義務付ける医療政策が検討されています。
少子高齢化が進む日本においては、患者数の増加に伴い、高齢患者の割合が急激に増加しています。クリニックでは、これまで以上に多様な対応が求められるでしょう。
来たる2025年には、65歳以上の高齢者が全人口の約30%を占めると予測されています。高齢患者は慢性疾患を抱える割合が高く、高血圧や糖尿病、骨粗鬆症、認知症など、複数の疾患を抱えているケースも珍しくありません。クリニックでの診療も複雑化し、診療時間も長くなると思われます。
さらに、訪問診療やリハビリテーション、介護サービスなどのニーズも増加しており、クリニックでもこうしたニーズに応えるための新しいサービスを模索する必要があります。
高齢患者が増えると医療サービス全体の需要も増えるのは当然ですが、前述のとおり、特に訪問診療や在宅ケアなどが求められる場面が増えると予想されます。一方で、医師不足が続く中では、このようなサービスを提供するための人的リソースを確保することが困難になる可能性があります。
クリニックとしては、既存の医療サービスを効率化し、新たなサービスを導入するための柔軟な戦略が必要です。
医療ニーズの変化に伴い、クリニックの経営にもさまざまな課題が生じています。その課題に対応するためには、長期的な視点に基づいた経営戦略が求められます。
医師1人あたりの診療患者数が増加することで、長時間労働が常態化するリスクがあります。そのような状況は医師やスタッフの心身の健康を損ない、最終的には離職に至るかもしれません。業務の効率化や働き方の見直しが必要です。
たとえば、医師事務作業補助者を活用することで、医師の診療以外の業務負担を軽減できます。また、電子カルテをはじめとする医療DXを進めることも、業務の効率化につながります。
患者数の増加は単純に収益増加につながりますが、同時にスタッフの増員や設備の更新といったコスト増加をもたらし、このバランスを取るのは容易ではありません。加えて診療報酬の引き下げなど医療費の抑制政策が進むことで、クリニックの収益構造が不安定になるリスクもあります。
2025年問題に伴うさまざまな課題は、クリニックが提供する医療サービスの質にも影響します。
患者数が増えてもクリニックの営業時間が変わらなければ、当然ながら患者さん1人あたりの診療時間は短くなります。もし患者さんが十分な診察を受けられないと感じてしまうと、それが信頼関係の低下につながるかもしれません。
患者数が増えることによる待ち時間の増加やコミュニケーション不足は、患者満足度の低下を招きます。これが口コミ評判などに影響すると、クリニックの集患力を低下させる可能性があります。
2025年問題を乗り越えるための手段のひとつが、テクノロジーの活用です。
電子カルテやオンライン診療システムは、診療の効率化に大いに役立ちます。しかし、導入には多額の初期投資が必要であり、その運用の成功にはスタッフの教育も欠かせません。
AI技術を活用した診断支援ツールやRPAなどを導入することで、業務の効率化が期待できます。ただし、導入には費用対効果の見極めが重要であり、長期的な投資計画が必要です。
2025年問題と向き合うために、クリニックの経営者たる開業医は積極的に行動し、戦略的な対応を考えなければなりません。
医師不足を解消するためには、医療政策的な介入が不可欠な状況となっています。前述のとおり、国や自治体の支援を活用し、地方勤務を奨励する制度の整備が求められます。たとえば、地方医療で一定期間勤務することを条件に奨学金を返済免除する政策の強化や、地方の医療機関で働く医師への経済的なインセンティブを提供することなどが考えられます。
また、既存の医師への再教育プログラムを整備し、新たな医療技術やITスキルを身につけてもらうことで、医療提供の効率化が期待できます。遠隔診療やAI診断ツールを活用するためのトレーニングプログラムの導入などが有効と考えられます。
患者データを効率的に管理して診療効率を向上させる電子カルテは、クリニック経営の基盤となります。クラウド型のシステムであれば初期コストが抑えられ、柔軟に運用できるメリットがあります。受付や予約管理の自動化も、スタッフの負担を軽減し、患者対応により多くの時間をかけられるようになります。
また、遠隔診療の導入も、特に地方医療や高齢者への診療において大きな可能性を秘めています。通院が難しい患者にも医療サービスを提供でき、診療の幅を広げられます。前述のAI診断支援ツールも診療の精度を向上させ、医師の負担を軽減させる効果があります。
経営戦略のひとつとして、収益源の多様化が挙げられます。診療科によっては、保険診療に依存し過ぎず、予防医療や健康管理プログラム、美容医療などの自費診療の分野に参入することで、収益基盤を強化することが可能です。
コスト管理としては、人件費や設備費用を適切にコントロールするための管理システムを導入するのも一手です。スタッフが働きやすい環境を整えて離職率を低下されるのも長期的な人件費の抑制につながるため、シフト制の柔軟化やメンタルヘルスサポートの提供といった職員満足度を高める施策も効果的です。
クリニック単独での解決が難しい課題に対処するためには、地域の医療機関や介護施設などとの連携が不可欠です。
近隣の総合病院や専門クリニックと連携し、患者のスムーズや紹介や逆紹介を実現することで、地域の医療資源を効率的に活用できます。そして、高齢患者のケアにおいては介護施設との連携が欠かせません。クリニックと介護施設との間で役割を分担することで、両者の負担を軽減できます。また、地域全体で医療情報を共有する仕組みを構築し、患者さんの診療情報や治療方針を共有できれば、より包括的な医療サービスを提供できるようになるでしょう。
専門的な知見を有するクリニック開業コンサルタントは、2025年問題を乗り越えるための頼れるパートナーです。ITツール導入の計画策定や経営戦略の見直しなどを通じて、クリニックの安定的な経営に向けた支援を受けられます。
信頼できるコンサルタントとタッグを組んで、来たる2025年問題を前向きに迎えましょう。