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通院患者さんに薬を処方する方法は、院内の薬局で調剤して患者さんに渡す「院内処方」と、患者さんに処方箋を発行して院外の調剤薬局で薬を受け取ってもらう「院外処方」に分けられます。
ここでは院内処方と院外処方の違いや、クリニックと調剤薬局との関係性について解説していきます。
かつては病院もクリニックも院内処方が当たり前でしたが、現在は院外処方が圧倒的に多くなっています。ただ、その理由は意外と知られていません。
院外処方の医療機関が多くなった大きな理由は、厚生労働省が推進する「医薬分業」にあります。わかりやすくいうと、薬を処方する医療機関と、薬を販売する薬局とで業務を分担することです。その背景にあるのは、多くの薬を出して多くの利益を生み出そうとする医療機関への牽制ともいわれていました。
それもすでに過去の話で、現在ではその利益の源となる「薬価差益」はほとんどなくなりました。院内で薬の在庫を抱えすぎると赤字になる恐れもあるため、それを防ぐために院外処方を選択する医療機関もあります。
国が定める医薬品の売値である「薬価」と納入価格の差によって発生する利益を「薬価差益」といいます。その差に開きがあれば、利幅が大きい薬が処方されやすくなるのは当然です。そうならないように、厚生労働省は医薬品の納入価格を定期的に調査し、薬価を見直す「薬価改定」を行なっています。
次に、患者さんが支払う薬の代金について見ていきましょう。
院内処方で薬を受け取る場合は、「処方料」「薬剤師の技術料」「薬価」の合計が支払金額となります。
処方料とは、薬の量や飲み方などに関する医師の指示料金で、診療科による違いはありません。ただし、一度に7種類以上の薬を処方すると減額されるしくみになっており、これは多くの薬が処方されるのを抑制するために国が採っている施策です。薬剤師の技術料は、基本料金に該当する「調剤基本料」と、医師の処方どおりに薬を準備する「調剤料」が該当します。薬価は前述のとおり国が定めた医薬品の統一価格で、全国共通です。
処方箋料はその名のとおり、医師が処方箋を発行する料金です。調剤報酬とは、処方箋を受け取った調剤薬局が、国が定めた料金表に従って請求する料金です。
次に院内処方のメリット・デメリットを考えてみましょう。
患者さんにしてみると、院内処方ならわざわざ処方箋を持って調剤薬局に行かなくて済みますし、薬の内容を処方したクリニックで詳しく説明できます。そう考えると、院内処方のメリットはクリニックよりも患者さん本人のほうが感じられるかもしれません。
前述のとおり、現在は薬価差益がほとんどないので、以前のような経済的なメリットは期待できません。また、院内処方であれば在庫スペースを要するほか、在庫のない薬をすぐ処方できない、なかなか処方されない薬が不良在庫になってしまうといったデメリットもあります。
院内処方のメリット・デメリットを示しましたが、院外処方なら逆になることを考えると院外処方を選択する医療機関のほうが圧倒的に多いのも頷けます。しかし、あえて院内処方を選択して患者さんにとっての付加価値につなげるというのもひとつの戦略です。
目先のメリット・デメリットだけではなく、今後の方針も踏まえ、中長期的な視野をもって選択することが大切です。
一般的に保険調剤を取り扱う薬局(保険薬局)を「調剤薬局」と呼びます。そして、クリニックと調剤薬局の関係性についてはさまざまなルールが課せられています。
院外処方の場合は、調剤薬局の独立性が問われます。原則的な基準は医療機関と調剤薬局が「経済的」「機能的」「構造的」に独立していることであり、それに反すると行政指導や指定取り消しなど厳しい措置がなされる場合があります。
医薬分業の趣旨に基づき、調剤薬局は医療機関から経済的に独立していなければなりません。したがって、資本提供や賃貸借関係等があると、一体的な経営とみなされ行政指導等の対象になります。
医療機関と調剤薬局の役員が同一人物だったり、近親者だったりすると、機能的に独立していないとみなされます。また、医療機関が特定の調剤薬局に処方箋を斡旋するような行為も禁じられています。
医療機関と調剤薬局を一体的な構造にすることは認められず、専用通路を設けることもできません。双方の出入り口は公道等に面している必要があります。ただし、身体が不自由な患者さんやお子さん連れの患者さん等に配慮し、医療機関と調剤薬局の敷地内併設は認められるように規制が緩和されています。
調剤薬局は、患者さんの健康を支えるためのさまざまなサービスを提供していますが、中心的な業務は処方箋の調剤です。医師が発行した処方箋に基づいて適切な薬を調剤し、それを患者さんに提供するのですが、この作業は単なる薬の準備ではありません。患者さんの病歴や体調、アレルギーなどを考慮し、薬の適合性や安全性を確認する重要なプロセスです。薬の成分が患者さんに適しているか、別の薬と併用した場合に相互作用が起こらないかも薬剤師が慎重に確認します。
そして、薬剤師による薬の説明や指導も調剤薬局に欠かせないサービスです。薬の効能や正しい使用方法を詳しく説明することで、患者さんが安心して薬を服用できる環境が整います。特に高齢者や多種類の薬を服用している患者さんに対しては、服薬スケジュールの説明や飲み忘れを防ぐためのアドバイスが重要になってきます。
また、調剤薬局は患者さんの服薬管理を支援する役割も担っています。内服薬の一包化サービスはもちろん、リマインダーアプリを用いた服薬タイミングの通知など、治療をサポートする便利なサービスを提供する調剤薬局も増えています。
調剤薬局にはいくつかの運営形態があり、それぞれに異なる特徴があります。クリニックとの連携を検討する際には、自院の運営方針や地域の特性に合った調剤薬局を選ぶことが大切です。
個人ないし小規模で運営されている独立型薬局は、地域密着型のサービスを提供しやすく、患者さんとの関係性を深めながら事業を展開しているケースも見られます。そのような薬局は、地域住民とも密接につながり、地域特有の医療課題に対応する柔軟性も有していると思われます。
一方で、規模が小さい分だけ在庫管理や人的リソースには限界があり、幅広いニーズに応じることが難しい場合もあります。
複数の店舗を展開する調剤薬局で、その規模は全国チェーンから地域密着型の中小チェーンまでさまざまです。経営基盤もしっかりしており、大規模なチェーン薬局では在庫管理や業務フローがシステム化されているため、効率的かつ安定したサービスの提供が可能です。
地域に根差した中小規模のチェーン薬局は、地域密着型のサービスを強みにしているところも多く、患者さん一人ひとりのニーズに合った対応が期待できます。
医療モールやクリニックビル内に併設されている調剤薬局で、同じ建物内で診察から薬の受け取りまでを完結できるため、患者さんの利便性が高いのが特徴です。複数の診療科を受診して処方箋を受け取っている患者さんでも、薬を一度に受け取れるのは大きなメリットです。
医療機関との距離も近く、特に忙しい患者さんや高齢患者さんのニーズを満たす運営形態だといえるでしょう。
クリニックが調剤薬局と連携することは、診療の質や経営効率の向上にもつながります。
調剤薬局と連携することで、患者さんは診察から薬の受け取り、服薬指導まで一貫したサポートを受けられます。たとえば、薬剤師による服薬指導では薬の飲み方や副作用の注意点が詳しく説明されるため、患者さんが薬を正しく使用し、治療効果を最大限に発揮させる環境が整います。慢性疾患を抱える患者さんの場合は、継続的な指導を受けることで生活習慣の改善や服薬の遵守が促され、これも治療効果の向上につながります。
調剤薬局との連携によって情報が円滑に共有されると、業務効率は大幅に向上します。たとえば、処方箋の管理をデジタル化することで患者情報が正確かつ迅速に伝達され、ミスの減少や待ち時間の短縮が実現します。また、調剤薬局と在庫情報を共有することで薬の欠品を防ぎ、患者さんがスムーズに薬を受け取れる体制を構築できます。調剤薬局との不要なやり取りもなくなるので、医療スタッフの負担も軽減されます。
調剤薬局との連携は、クリニックの経営面にもメリットをもたらします。そもそも院外処方には薬剤管理や調剤業務のアウトソーシングという側面があり、クリニックの運営コスト削減にもつながります。また、調剤薬局との共同プロモーションを通じて地域住民の認知度を向上させ、新規患者さんの獲得を目指すことも可能です。
クリニックと同じように、調剤薬局も地域包括ケアシステムの一部として機能すべき存在です。クリニックと調剤薬局の連携は患者さんの健康を総合的にサポートする地域医療ネットワークの強化につながるため、地域住民からの信頼も高まり、クリニックの存在感も大きくなるでしょう。
クリニックと調剤薬局の連携においては、メリットだけではなく、デメリットがあることも覚えておきましょう。
調剤薬局との連携には、システム導入などの物理的なコストが発生する場合があります。たとえば、患者情報を共有するシステムの導入初期費用やランニングコストが問題になるケースもあるかもしれません。
クリニックと調剤薬局の間での情報共有が不十分だと、患者さんが不利益を被るリスクがあります。たとえば、患者さんの服薬情報やアレルギー情報などが適切に伝達されなければ、治療にも悪影響を及ぼしてしまいます。
患者情報システムの互換性が十分でなければ、情報共有もスムーズに行えず、余計な手間やコストが増える可能性があります。システム間の連携を効率化する工夫が必要です。
調剤薬局との連携によって、クリニックの運営における独立性が制限される場合もあります。調剤薬局の経営方針や運営状況がクリニックに影響を及ぼす可能性も考えておいたほうがいいでしょう。
調剤薬局との連携を成功させるには、当然ながら、適切なパートナーとなれる相手を選ぶことが重要です。以下のポイントを考慮しながら連携先となる調剤薬局を選ぶことで、長期的なパートナーシップを築ける可能性も高まります。
連携を成功させる上でもっとも重要な要素のひとつは、その調剤薬局が地域住民に信頼されているかどうかです。地域密着型の調剤薬局は患者さん一人ひとりに対して柔軟な対応が可能で、地域医療の中核としても重要な役割を果たします。地域の高齢者のニーズに合わせた配達サービスや健康相談会の開催など、地域に根差した取り組みを展開している調剤薬局は信頼性が高いといえるでしょう。
薬剤師の専門性や患者対応力も、連携先を選ぶ際に確認すべきポイントになります。特に、個別性の高い対応が可能な調剤薬局を選ぶべきです。たとえば、多言語対応が可能な調剤薬局や、待ち時間短縮のための予約制を導入している調剤薬局は、患者満足度を向上させる力があるとみていいでしょう。
クリニックで導入している情報システムが、調剤薬局側のシステムと連携可能かどうかを確認することも大切です。システム間の互換性がなければ情報を手入力しなければならず、業務が煩雑化するリスクがあります。シームレスなシステム連携が実現すれば、患者情報の共有も迅速かつ正確に行なわれ、業務効率が飛躍的に向上します。
連携の大前提として、調剤薬局の経営基盤が安定しているかどうかも重要なポイントです。財務的に健全であるか、長期的な運営を見込めるかを事前に評価しましょう。言うまでもありませんが、経営の安定性は長期的な連携に欠かせない要素です。
前述のポイントに加えて、連携を成功させるための具体的な戦略を考えてみましょう。
まずは何といっても、クリニックと調剤薬局の間で信頼関係を構築することが連携成功の基盤です。定期的なミーティングや情報交換を通じて双方の目標や課題を共有し、緊密な協力体制を整えましょう。
連携のメリットでもお伝えしたとおり、地域医療における認知度を高めるためにクリニックと調剤薬局が共同でプロモーション活動を行うことも効果的です。地域住民向けの健康講座などを開催することで、地域における信頼性を向上できます。
医療情報システムの統合は、クリニックと調剤薬局の情報共有の効率化や業務負担の軽減に寄与します。スムーズな情報共有は待ち時間の短縮にもつながり、患者満足度を高めることも可能です。
調剤薬局との連携が実際にどのような成果を上げているのかを定期的に評価し、改善点を洗い出すことも大切です。具体的には、患者さんに対するアンケート調査や、連携効率に関するデータを収集するなどして改善策を講じていけば、連携の効果も最大化できるはずです。
調剤薬局との連携についてお伝えしてきましたが、多くの医療機関が院外処方を選択している理由もご理解いただけるのではないでしょうか。もちろん、あえて院内処方として患者さんにとっての付加価値を提供する、という戦略もあります。いずれにしても、目先のメリット・デメリットだけで判断するのではなく、クリニックの中長期的な方針を踏まえた上で選択することが重要です。
院外処方を選択して調剤薬局との連携を進めるのであれば、信頼できる調剤薬局をパートナーとして選定し、継続的な協力体制を構築することが成功のカギです。そして連携の成否は患者満足度の向上や地域医療への貢献だけではなく、クリニックの成長や地域での信頼獲得にも大きな影響を与えます。このような視点を踏まえて最適な選択を行ない、地域社会に根づいた医療提供体制を築いていくことが求められます。