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国家資格である医師には生涯現役で働きたいと考える向きも多く、それはキャリアプランの組み立て方次第で十分に実現が可能です。とはいえ、毎日の激務によって気力や体力をすり減らしている医師が多いのも事実。ワークライフバランスを保てずに燃え尽きてしまう医師は後を絶ちません。
医師を続けていくうえでワークライフバランスを整えるにはどうすべきか、じっくり考えてみましょう。
長時間の労働に追われてプライベートな時間を確保できないことに悩む医師は多くいますが、その背景には医療機関の採算性の問題があります。
医療インフラや医学教育を担う一部の例外を除くと、多くの医療機関は一般企業と同様に営利を追求しなければ存続していくことができません。高額な医師の人件費に苦慮する医療機関も多く、医師が不足していない地域であっても医師の採用人数を制限するケースもあります。そうなれば当然、医師1人あたりの労働時間も長くなるでしょう。
もちろん経営陣の方針にもよりますが、医師のワークライフバランスよりも採算性を重視する医療機関はまだまだ多いのが実情といえます。
医師に限ったことではありませんが、女性の場合は「出産」というライフイベントがあり、それもワークライフバランスを保つことを困難にしている要因です。
一般的に出産適齢期は25歳頃から30歳頃と言われていますが、ちょうどその年代の医師は研修医もしくは医局勤務などでスキルを磨いている最中だと思われます。そのタイミングで妊娠・出産に踏み切ることができるかというと、なかなか悩ましいところではないでしょうか。もちろん出産後の子育てにかける時間も考えなければなりません。そうなると、この先も医師の仕事を続けていけるかどうかという根本的な問題とも向き合う必要があります。
どんなに激務な医師であっても、理想的な働き方や生き方を追求する権利があるのは言うまでもありません。まずは自分の現状を整理し、そのうえで自分にとって望ましいのはどんな状態なのかを考えてみましょう。ポイントは「医師としてのやりがい」「プライベートの充実」「報酬」です。
たとえば、研鑽を積んでいる最中の若手医師であれば仕事が最優先になるでしょうし、子育て中の医師であればその時間を確保することを望むかもしれません。開業に向けて資金を貯めるために、報酬を第一に考える医師もいるでしょう。自分にとって何を大切にすべきか、その優先順位がはっきりすると理想的なワークライフバランスも浮かび上がってくるはずです。
それが見えたら将来のことも考えてみましょう。いつまで医師として現役を続けるのか、将来的に開業を目指すのか、それによっても目指すべきワークライフバランスは変わってきます。
過剰な労働時間や報酬の不満はいずれも職場の問題ですので、もっとも身近なところ、たとえば上司に相談してみるのも一手です。勤務時間の管理や当直の調整を依頼するほか、自分でも業務の効率化について考えて提案するのも有効ではないでしょうか。
もちろん相談するだけで問題がすべて解決するわけではありませんが、上司に問題意識を持ってもらうことで解決の方向性が見えてくる可能性もあります。上司とのコミュニケーションが良好で相談しやすい環境であれば、まずは身近なところから状況の改善を図っていくべきかもしれません。
労働時間の問題は、そもそも所属する診療科の特性に原因があることが少なくありません。たとえば手術を行なうことが前提である外科系診療科や産科、麻酔科などはどうしても労働時間は長くなり、まして緊急手術などが入ればなおさらです。
若手のうちは無理をしてでも働いて経験を積みたいという医師もいるでしょうが、ゆったり働きたい医師もいるはずです。そんなときは転科を考えるのもいいでしょう。労働時間が長くなりにくい診療科には眼科や皮膚科などがあり、医療機関によっては転科する医師に向けて研修体制が整っているところもあります。
眼科は他の診療科と比較して労働時間が短い傾向にあり、厚生労働省の調査でも全診療科の週当たり平均労働時間が56時間22分であるのに対して眼科は50時間28分という結果が出ています。女性医師が多いのも眼科の特徴で、出産や育児といった家庭の事情を抱える医師にとっても長く働きやすい環境であることが伺えます。
とくにクリニックで働く眼科医はコンタクトレンズや眼鏡の処方箋発行、白内障やレーシックといった計画手術など緊急対応を要さない仕事が多いため、ワークライフバランスを重視する医師に向いているようです。
皮膚科も女性医師の割合が高い診療科ですが、その理由には仕事とプライベートを線引きしやすく、育児とも両立できるということがあるようです。
まず皮膚科は通院患者さんがほとんどで容態急変などの緊急対応も少なく、他の診療科に比べて仕事にゆとりがあります。体力的にも余裕をもって働けるので、転科を考えずにワークライフバランスを保って仕事を続けていけるというメリットがあります。
耳鼻咽喉科もワークライフバランスの面での満足度が高い診療科のひとつです。総合病院や医師の少ない地方では労働時間が長くなる傾向にありますが、それ以外では軽症の患者さんが多く、手術も短時間で済むものがほとんどのため、体力的にも精神的にも無理なく働けると思われます。
診断から治療まで一貫して自分主導であること、勤務医や開業医など働き方を選びやすいこともあって、耳鼻咽喉科もまた女性医師が多い診療科となっています。
緊急の措置入院などを受け入れている医療機関を別にすると、精神科は体力的な負担が少なく働きやすい診療科だと思われます。クリニック勤務であれば入院対応もないので、ゆとりをもって働きたい育児中の医師にもおすすめできます。
実際に他の診療科から精神科に転科する医師も多く、他の診療科よりもワークライフバランスを保ちやすいのがその理由のようです。出産や育児といったライフイベントをきっかけに転科を検討する医師も多くいます。
前述の「医師としてのやりがい」「プライベートの充実」「報酬」に関する問題を解決するために転職する医師は多く、実際に医師は生涯で4~5回の転職を経験するとも言われています。つまり、転職は医師にとって珍しいことではないのです。
しかし、転職を成功させるためには膨大な情報収集が必要です。ワークライフバランスが保てそうな求人でも、実際に転職してみたら激務だったというケースはいくらでもあります。正確な情報を集めると同時に、転職の目的を明確にしておくことが失敗を防ぐための最大のポイントです。
勤務医であれば解決が困難な労働時間や報酬の問題も、開業医であれば自分で決められるのでワークライフバランスが保ちやすいといえるでしょう。特に報酬は勤務医と開業医では大きな差があり、開業して年収が倍増したという医師も少なくありません。
ただし、開業して理想的なワークライフバランスを実現できるのは、クリニックの経営が安定していることが条件です。経営者になるということは相応のリスクも伴うため、事前の綿密な準備に加えて自身の経営手腕が問われることも忘れてはいけません。
どうしても労働時間の問題を解決できないのであれば、非常勤やアルバイトとして働くという選択肢もあります。非常勤であれば基本的に残業はありませんし、契約内容次第で当直やオンコールからも解放されます。現在の勤務先で雇用形態を変更するにしても、非常勤として他の医療機関に転職するにしても、いったんプライベートの時間を確保するためには有効な手段です。これからのキャリアプランを落ち着いて考える時間も持てるでしょう。
非常勤やアルバイトとして仕事を続けながら出産や育児に向き合っている女性医師も多くいます。
理想的なワークライフバランスを実現させるために、医師の資格を活かしながら異業種へ転職するという手段もあります。企業で社員の健康管理や職場の衛生管理に従事する産業医や、保健所などで地域住民の健康促進や医療施策の課題解決にあたる公衆衛生医師、製薬会社で新薬開発や臨床試験などに携わるメディカルドクターなどがその代表です。
ただし、勤務医に比べると報酬面などで劣る可能性は高いです。自分がどんな要素を優先するのかしっかり決めておくことが、異業種への転職を検討するにあたって重要になってきます。
多くの医師がワークライフバランスの理想と現実の狭間で苦しんでいますが、そこを改善しなければ医師として充実した人生を送ることはできません。
もし現在の働き方でワークライフバランスを保てないと感じたら、できるだけ早く解決の糸口を探し始めましょう。転科や転職、そして独立開業など、一人ひとりに合った解決方法が必ずあるはずです。