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北海道で不妊治療専門クリニックを開業して成功させるためには、どのような点に考慮して計画を立てるべきでしょうか。
このページでは、不妊治療専門クリニック開業のポイントを解説していきます。開業を検討しているドクターはぜひ参考にしてください。
産婦人科の医療は、周産期領域、婦人科腫瘍領域、そして生殖・内分泌領域(生殖医療)の大きく3つの専門領域に分類されます。その中でも周産期と婦人科腫瘍は長い歴史を持ちますが、生殖医療は比較的新しい分野だといえるでしょう。
現代の日本は女性の社会進出に伴って晩婚化、晩産化が進み、不妊治療の需要も高まっています。治療技術も日進月歩で発展しており、この先も大きな可能性を秘めた診療領域です。したがって、不妊治療専門クリニックの開業は、時代のニーズに合っているという大きなメリットがあります。
不妊治療には高度な専門技術や医療機器を要するほか、場合によってはクリニックに研究機関を併設することもあるため、広い敷地や建物が必要になるケースもあります。もちろん、そこに従事するスタッフも雇用しなければならないので、初期投資はかなり高額になることを覚悟しなければなりません。
また、不妊治療は非常に繊細な領域なので、ほんの少しの不手際でもクリニックの悪評につながりかねません。診療だけではなくホスピタリティにも十分に配慮する必要があります。
不妊治療の実績を重ねていけば必然的に患者さんも集まるようになりますが、やはり優秀なスタッフがそろっているクリニックは自然と評判も高まってきます。成功しているクリニックには、そういった人材を活用して体外受精に関するガイダンスやカウンセリングなどを実施し、不妊治療に関する領域のトータルサポートを打ち出しているところが多くあります。
また、特色のある治療を行なうのもクリニックの成功につながります。男性不妊外来をはじめ、漢方や栄養指導、生活習慣改善や妊娠しやすい身体づくりのアドバイスなど、競合先と差別化できるポイントを検討しましょう。
不妊治療専門クリニックは、患者さんから「子どもを授かりたい」という大きな願いを託されることになります。それだけに、クリニックの印象が良くなかったり、スタッフとの相性に疑問を抱かれたりしてしまうと、患者さんの足はどんどん遠のいてしまいます。
大きなクリニックにありがちですが、対応するスタッフが毎回変わるとシステマチックな印象を与えます。淡々と治療を受けられるほうがいいという患者さんもいますが、「事務的で冷たいイメージだ」とストレスを感じる患者さんもいます。該当エリアの患者さんの特徴やニーズを的確に捉え、より求められている対応をとるのがベターです。
47都道府県の中で最大の面積を有する北海道、それゆえ地域における人口格差、医療格差が大きな課題となっています。もちろん、クリニックの開業を検討する際にこれらは必ず検討すべき環境要因です。
とはいえ、不妊治療専門クリニックであれば対象となる潜在患者層も明らかなので、開業候補地は必然的に一定数以上の人口を有するエリアになるでしょう。当然ながら、将来的な人口推計も十分に考慮する必要があります。特に北海道は人口の一極集中化が顕著で、札幌市を中心とした都市圏以外における人口の大幅な減少が予想されています。
また、北海道では一般不妊治療だけを実施している産婦人科系クリニックも多くみられます。高度不妊治療を要する患者さんを紹介してもらえるような医療連携体制を構築することを考えると、あえて産婦人科系クリニックが多いエリアで開業するのも一手かもしれません。
寒冷地ならではの積雪や交通手段の問題もあります。仕事世代の女性にとってのアクセス性の良さも、クリニックの集患力に直結するでしょう。 いずれにしても、開業候補地を戦略的に絞り込んでいく作業には専門的な視点が不可欠で、それをドクターに求めるのは少々酷だといえます。専門的な知識やノウハウを持つプロの開業コンサルタントのアドバイスを受け、不妊治療という高度な専門性を活かせる有利な開業候補地を見つけましょう。
北海道には約2,700のクリニックが存在し、そのうち約120が産婦人科系クリニックです(2022年11月現在)。人口10万人あたりの産婦人科系クリニック数は全国平均の3.78施設に比較して2.35施設と、北海道は不足傾向にあります。
ただし、産婦人科系クリニックのすべてが不妊治療を行なっているわけではありませんし、高度不妊治療であれば尚のこと件数は限られます。開業時の診療圏調査では単純なクリニック件数だけではなく、診療内容にも踏み込んだ詳細な競合先の調査が必要です。
診療科によっては開業に適した時期がありますが、不妊治療専門クリニックの場合はそれほど季節変動を考慮しなくてもよさそうです。ただし、勤務医が開業する場合は、それまでの勤務先を円満に退職できる時期を見極めることが大切です。不妊治療が必要になった患者さんを紹介してもらうことを考えると、以前の勤務先との良好な関係を維持しておくことは非常に大切です。
産婦人科医が少ないといわれる北海道でも、都市部では競合先もそれなりに多くなります。そうなるとクリニックの強みと呼べる得意分野が必要になりますが、不妊治療に関する実績や特殊技術は十分それに該当します。
ただ、ひと口に不妊治療といっても、人工授精や体外受精、顕微授精、凍結保存、男性不妊対応など、クリニックによってできること、できないことはさまざまです。どんな不妊治療を手がけるのかを明確にした上で競合調査を行ない、計画を立てていきましょう。
不妊治療には、タイミング法や人工授精をはじめとする一般不妊治療と、体外受精や顕微授精などの生殖補助医療(特定不妊治療)があります。これまでは不妊症の原因を調べる検査や、不妊症の原因である子宮内膜症などの治療、そして一般不妊治療の一部のみしか保険診療の対象になっていませんでした。一般不妊治療における人工授精や生殖補助医療は自費診療とされ、助成は各自治体の取り組みに委ねられてきた経緯があります。
令和4年度の診療報酬改定において、一般不妊治療も生殖補助医療もようやく保険診療の対象となりました(※)。ただし、いくつかの条件があり、たとえば年齢制限でいうと女性は治療開始時点で43歳未満の方が対象です。男性側の年齢制限はありません。
不妊治療専門の開業資金は、体外受精や顕微授精などの生殖補助医療(特定不妊治療)が伴うことから高額になりがちです。医療機器や設備への投資は必須ですし、培養室や無菌室なども欠かせないので特殊な内装工事も必要です。開業エリアにもよりますが、初期投資が1億円を超えることもあるでしょう。少しでもコストを圧縮するために、機器選定などに際しては必ず相見積もりを取って比較することです。
次に開業医の年収ですが、不妊治療専門クリニックにおけるデータは存在しません。ただ、札幌市内では不妊治療専門クリニックの常勤医募集で1,600~2,200万円という条件(※)もみられます。オーナーである開業医であれば、少なくともそれ以上の年収を見込めるとも考えられます。
不妊治療専門クリニックは初期投資が高額なため、開業時はもちろん、経営が安定するまでまとまった資金が必要になることが予想されます。
北海道の場合、クリニックへの融資に関しては都市銀行よりも地方銀行や信用金庫のほうが、フットワークが軽い印象があります。金融機関以外の資金調達方法としては、北海道医師会の「特約融資制度」などを利用したほうが金利面などで有利な場合もあるでしょう。
産婦人科領域では、日本産婦人科学会が認定する産婦人科専門医資格がもっともメジャーだといえるでしょう。不妊治療でいえば、日本生殖医学会が認定する生殖医療専門医資格があり、北海道では2022年4月1日現在、まだ36名しか登録がありません。(※1)広告も可能な資格(※2)なので、取得しておけば集患に役立てることができそうです。
診療科に関わらず、クリニックの開業プランを立てる際には経営理念やコンセプトを固めることから始めるべきです。そして、綿密な診療圏調査と競合調査を行ない、開業エリアを絞り込んでいきます。
物件を決める際には、不妊治療を受ける患者さんの心境に配慮する必要があります。できれば戸建てではなくテナント開業を選択し、患者さんが不妊治療を受けていることが周囲からわかりにくいようにしましょう。
設備や内装に関しては、受付や待合スペース、カウンセリングルーム、診察室、手術室、培養室、リカバリールーム、採精室などについて、プライバシーの確保はもちろん、患者さんやスタッフの導線をしっかり検討しておく必要があります。特に培養室は不妊治療専門クリニックの核となるため、想定する採卵数に合わせた余裕のあるスペースの確保が望まれます。
オープンが近づくと、スタッフの募集と採用にとりかかります。不妊治療専門クリニックは専門職の採用が不可欠なため、職種に応じてさまざまな媒体を利用しましょう。
ネット戦略にも力を入れる必要があります。不妊治療は患者さん同士の口コミによる増患に期待できないので、ホームページの内容やSEO(検索エンジン対策)、リスティング広告など、専門家の力を借りながら準備を進めていきます。
また、クリニックの開業には行政に対するさまざまな申請が必要になります。そうした手続きは専門的な知識が必要で、ドクターが独力で処理するのは困難です。経験豊富な開業コンサルタントに任せたほうが無難でしょう。
ようやくこぎつけたクリニックのオープン、ドクターにとっては経営者としての人生のスタートでもあります。
ただ、すぐに多くの患者さんが来てくれるということはまずありません。不妊治療という専門特化の診療科であればなおさらです。
不妊治療が保険診療の適応となったことで、即月の現金収入は期待できなくなりました。診療報酬の入金は2カ月後から始まるため、それまでは無収入でもクリニックを運営できるよう、資金的な余裕を持ってクリニックをオープンさせることが大切です。