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クリニックに外国人患者が来院したときの対応について

今や日本中どこでクリニックを開業するにしても、外国人患者の受け入れは避けて通れない課題であり、もちろん北海道も例外ではありません。特に観光客が多く訪れるエリアでは、外国人患者の急な来院にも備えて適切な体制を整えておく必要があります。

ここでは、外国人患者受け入れの重要性や課題、対応策、関係機関等について解説します。

北海道を含む観光地における外国人患者の医療機関利用実態

観光庁が実施した「訪日外国人旅行者の医療に関する実態調査」によると、訪日中に病気や怪我で医療機関を受診した外国人旅行者は回答者全体の約4%で、主な症状として風邪や発熱が多くを占めています。また、民間医療保険に加入している割合は約73%ですが、東南アジアでは82.6%、欧米豪では68.7%と地域差がみられます。未加入の理由として、民間医療保険の未認識が挙げられています。

日本政府観光局では外国語での対応が可能な医療機関を紹介するアプリを展開していましたが、2023年9月末でサービスが終了し、2024年10月の時点でも再開されていません。このような状況からも、外国人患者が急に来院する可能性が高まっていると考えられます。

参照元:観光庁「訪日外国人旅行者の医療に関する実態調査」(https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001751352.pdf

参照元:日本政府観光局「ウェブサイトやSNSを通じた訪日観光情報の提供」(https://www.jnto.go.jp/projects/overseas-promotion/market-projects/web-sns.html

外国人患者の受け入れに関する課題とは

外国人患者の受け入れにあたり、医療機関では言語の違いや宗教、生活習慣の違い、保険や支払いなど、さまざまな課題が発生します。

言語の違い

日本語が話せない外国人患者との意思疎通は困難であり、症状を正確に把握しきれず適切な医療サービスを提供できない可能性があります。また、検査や手術に関する同意取得のプロセスにおいても、誤解を生じやすくなってしまうでしょう。

宗教の違い

イスラム教やユダヤ教など、特定の宗教を信仰する患者には、礼拝スペースの提供や宗教に基づく食事制限に配慮しなければなりません。特に入院で長期滞在になる場合、食事内容には宗教的な配慮が必要であり、患者が安心して治療を受けられる環境を提供することが大切です。

生活習慣の違い

外国人患者の生活習慣は、病気や治療に対する考え方にも影響を与えます。たとえば食生活は治療における重要な要素ですが、慣れ親しんだ食材や食事スタイルが異なるため、メニューにも工夫が必要です。また、プライバシーの捉え方や入院中の過ごし方にも違いがあり、文化的な配慮が求められます。

保険と支払い

外国人患者の保険適用状況や支払い方法も課題です。特に海外旅行保険が適用されるかどうかの確認や、クレジットカードや電子マネーなど多様な支払方法への対応も必要です。保険が適用されず、全額自己負担となる場合の対応も考慮しておくべきでしょう。

外国人患者・移住者に対応するには

外国人患者の受け入れ体制を整えることは、クリニックにとって競争優位性を高めるポイントになります。受診の際は総合病院を選択する傾向が強い外国人患者も、地域によっては急病でクリニックに来院する可能性も高く、スムーズに受け入れることで外国人患者から信頼を得られます。

近年では外国人患者のサポート団体に登録している医療機関のほか、海外の富裕層向けの医療ツーリズムを運営している企業と提携している医療機関などもみられます。

それでは、外国人患者に対応するための具体策をいくつか紹介します。

対応1:外国語に堪能なスタッフ雇用と異文化研修の実施

外国人患者の対応において、外国語に堪能なスタッフの存在は大きな強みです。そのようなスタッフを雇用することで、外国人患者とのコミュニケーションの質が向上し、症状も正確に把握しやすくなります。加えて医療英語の基本を学ぶ研修を導入することで、スタッフ全員の知識の向上にもつながります。

また、外国人患者が安心して治療を受けられるよう、宗教や生活習慣、文化的な価値観の違いを尊重した接遇の研修も有効です。異文化対応を予習しておくことで、外国人患者に寄り添った対応が可能となり、信頼関係も強化されるでしょう。

翻訳アプリの導入による即時対応

外国語を話せるスタッフが常駐していない場合や、対応できない言語の外国人患者が来院するケースも想定されます。そんなときに役立つのが医療用翻訳アプリです。言葉の壁を取り除くサポートツールとして効果を発揮してくれます。

医療機関向けの翻訳アプリには、医療用語や症状に特化したものが多く、AIを活用してリアルタイムで正確な翻訳が提供されるのでコミュニケーションもスムーズになります。スマートフォンやタブレットで手軽に利用できるのもメリットで、外国人患者の言語に対応できない場合の補助として常備しておくと安心です。

多言語資料の作成とデジタル対応

外国人患者が受診した際には、診断や治療の内容、薬の服用方法、支払い手続きなど、情報を正確に理解してもらうことが重要です。そこで、多言語対応の資料を用意しておくと非常に役立ちます。

この資料は、日本語がわからない外国人患者でも診察の流れや医療費の支払いなどを一目で理解できるようにすることがポイントです。また、現場での配布用に紙ベースの資料を用意するだけではなく、ホームページにも多言語の情報を掲載することで、来院前に必要な情報を確認してもらえるようになります。

外国人患者受け入れに関する関係機関・連絡先

外国人患者の対応には、北海道内外の関係機関と連携することも大切です。以下に、外国人患者の対応に関連する主な機関と連絡先を紹介します。

日本医師会

日本医師会では、外国人医療の取り組みの一環として、多言語対応の電話通訳サービスを実施しています。問い合わせ先は以下のとおりです。

  • (外国人医療関連全般)地域医療課 電話番号:03-3946-2121(代)
  • (日本医師会医師賠償責任保険・医療通訳サービス)医賠責対策課 電話番号:03-3946-2121(代)

北海道観光振興機構

北海道観光振興機構では「英語による一次救急救命実践ガイド」を作成、配布しています。旅行ガイドに向けた内容ですが、英語コミュニケーション事例はクリニックの外国人患者対応にも役立ちます。

参照元:(pdf)北海道観光振興機構「ガイディングのための英語による一次救急救命実践ガイド」(https://www.visit-hokkaido.jp/lsc/upfile/document/0000/0071/71_6_file.pdf

まとめ

海外でも人気の観光地である北海道でクリニックの開業を検討するなら、外国人患者への対応力は重要なポイントになります。

言語や文化の違いに起因するトラブルを避け、安心して治療を受けてもらうためには、外国語対応の強化や異文化理解、保険や支払い手続きの整備が欠かせません。そのような受け入れ体制を整えることで、外国人患者との信頼関係が築かれるだけではなく、地域社会からの評価を高めることにもつながるでしょう。