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開業医として知っておきたい業界用語

クリニックの新規開業や経営の場面では、さまざまなキーワードが飛び交います。そこで、これから開業を検討しているドクターのために、知っておくべき業界用語をまとめました。準備段階で耳にする用語ばかりですので、ぜひ参考にしてみてください。

開業に関する用語

医師会

医師会は医師免許を持っている人が任意で加入できる職能団体で、それぞれが独立法人として独自の判断で活動しています。

日本医師会は政府に対して医療政策に関する提言を行なう一方、生命倫理に関する問題に取り組むなど幅広い活動を行ないます。都道府県医師会は行政との折衝や医療事故への対応、群市区医師会は地域医療の発展のために現場の視点で活動します。

医療広告ガイドライン

クリニックを含むすべての医療機関は一定の項目を除いて広告が禁止されており、厚生労働省が公布する医療広告ガイドラインに詳細が示されています。

2017年の医療法改正で医療機関のホームページも広告規制の対象となり、行政による検査や是正命令、罰則を受けるケースもあります。現在ではクリニックの新規開業にホームページは欠かせませんが、このガイドラインを遵守したコンテンツの作成が求められます。

医療法

日本における医療の提供体制を定めた法律で、昭和23年(1948年)制定されました。医療提供の概念や医療に関する選択の支援、医療安全の確保などに関する基本であり、すべての医療機関がこの医療法に基づいて運営されます。

クリニックの開業に際して遵守すべき建物の構造や設備、人員体制等についても厳格に定められています。

医療法人

病院や診療所、介護老人保健施設の開設を目的として設立される法人のことで、根拠法令は医療法です。

医療法人化されたクリニックでは院長の報酬も給与となるほか、所得税や住民税も法人課税となるので節税効果も生まれます。院長の家族を法人の役員にして報酬を支払うことも可能です。このほか、医療法人は介護施設も含めて複数の事業所を運営できるので事業を拡大しやすく、それに伴って収益性の向上も見込めます。

印鑑登録証明書

個人の印鑑に対する公証の書類です。住民登録している自治体の役場で印鑑を登録すれば、必要に応じてスムーズに取得できます。

クリニックの銀行口座開設やクレジットカード作成、開業時における資金調達の際などに提出を求められます。

開業コンサルタント

クリニックの経営を安定させるためには、具体的な将来像を固めておくことが欠かせません。したがって、開業に際しては実現性の高い事業計画が必須となります。しかし、このような一連の作業には時間と労力、そして専門的なノウハウが必要です。ドクターだけでは対応が困難な場合は、開業コンサルタントに頼るのも選択肢のひとつです。

開業コンサルタントは、マーケティング(診療圏調査)や事業計画の作成、会計などさまざまな支援を行ないます。開業後の運営に関しても集患や業務改善、人事など、経験豊富なプロの視点からサポートしてくれます。

開業届

個人事業主が事業を始める際に所轄の税務署に届け出る書類のことで、開業医も同様です。開業届を提出することで継続事業として経費の計上が可能となり、節税効果の高い青色申告制度にも該当するようになります。

開業届の提出は義務ではありません。しかし、クリニック名義の銀行口座開設や賃貸借契約の際にも開業届の写しを求められるので、個人事業主としての社会的な証明として必ず届け出ておくようにしましょう。

開設届(開設許可申請書)

クリニックを新規に開業する場合、事前に管轄の保健所に開設届(開設許可申請書)を提出しなければなりません。その許可を得て、はじめてクリニックの工事が可能となります。内装工事や医療機器の搬入が済んで診療が開始できる状態が整ったら、次に検査申請書を提出します。それを受けて保健所は立入検査を実施し、医療法に基づいてクリニックの構造や感染対策、医療廃棄物の処理体制など所定の事項を確認した上で開設許可証が交付されます。

ただし、保健所の許可を受けて認められるのは自費診療のみです。保険診療を行なう場合は厚生局に保険医療機関指定申請を行なわなければならないので注意が必要です

※参照元:関東信越厚生局公式ホームページ|保険医療機関・保険薬局の指定等に関する申請・届出
(https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kantoshinetsu/shinsei/shido_kansa/hoken_shitei/index.html)

経営理念

一般的に経営理念とは、企業の運営に関する基本的な考え方や価値観、存在意義などを表すもので、クリニックの経営理念も同様です。

経営理念を患者さんやスタッフ、地域社会に向けて発信することで、クリニックの社会的責任を示すことも可能。組織風土の形成や優秀な人材確保につながる求心力にすべきものでもあります。

厚生局

厚生局は厚生労働省の地方支分部局で、医療や福祉、年金などの国の社会保障政策を地域で実施する公的機関です。主に健康福祉や医療・食品衛生を所管する健康福祉部、麻薬の取り締まりを行なう麻薬取締部から構成されます。

クリニックを開業する際、保険診療を実施する場合は厚生局への各種申請が必要です。

事業計画書

クリニックの事業内容や戦略、収益の見込みなどを説明するための書類で、クリニックの開業資金や運転資金を調達する際に欠かせないものです。 また、事業を客観的な視点で見つめ、経営のヒントを得るためにも事業計画書は役立ちます。資金調達の有無に関わらず、開業時には必ず作成すべきです。

消防署

消火活動や救急搬送・救助活動などを専門的に行なう公的機関です。防火管理などの予防行政、高圧ガスなどの危険部保安も消防署が所管します。

クリニックを開業する際は、規模に応じて防火管理者の届出を行ない、消防計画を提出が必要です。

スケール

ビジネス用語としてのスケールには、拡大や縮小といった意味があります。事業規模や利益が拡大する場合は「スケールする」、その逆の場合は「スケールしない」と表現されます。

クリニックの場合は、事業拡大のために患者さんの受け入れ体制を広くしたり分院を展開したりするケースが「スケールする」と表現できるでしょう。

税務署

税務署は国民が納める税金を管理する公的機関のひとつです。国税庁の下部組織で、多くの法人や個人事業を広く担当しています。 クリニックを開業した場合、個人事業主として1カ月以内に開業届提出が必要です。

ビジネスモデル

ビジネスモデルとは、事業でどのように利益を生み出していくかを表すしくみのことです。

一般企業と同じように、クリニックのビジネスモデルも時代の流れとともに変遷していきます。ただ、「患者さんのニーズに合った高水準な医療の提供」という医療の根幹にかかわる部分は今も昔も変わらないでしょう。

福祉事務所

福祉事務所は社会福祉法に基づき、都道府県や各市に設置されている公的機関です。

所属する専門スタッフが援護などを要する人を訪問・面接して状況を調査し、保護措置の必要性の判断や生活指導などを行ないます。また、民生委員や児童委員に関する事務、児童扶養手当に関する事務も福祉事務所の仕事です。

プライバシーポリシー

個人情報保護方針のことです。クリニックの場合は、患者さんの個人情報をどのように取り扱うか、患者さんのプライバシーにどのように配慮するかを定めた、個人情報保護対策の規範を指すものです。

本人の同意を得ずに個人情報を第三者に提供してはいけませんが、法定等の定めによる場合は除くとされています。

防火管理者

消防法の規定により、収容人数30人以上のクリニックを開院する場合は、火災防止等の責務を担う防火管理者を配置する必要があります。クリニックの延床面積が300m2以上であれば甲種防火管理者、それ以下であれば乙種防火管理者の配置が求められ、それぞれ所定の講習を受けると修了証を付与されます。

北海道では防災協会等の各団体が講習を開催していますが、事前申し込み制につき早めの受講をおすすめします。

保険医療機関指定申請

クリニックが保険診療を行なう場合は、所轄の厚生局に保険医療機関指定申請書を提出して認可を受ける必要があります。北海道の場合、新規の保険医療機関指定申請の締め切りは毎月20日となっており、翌月1日付けで指定通知書が交付されます。

気をつけなければならないのは、保険医療機関指定申請の際に保健所が交付する開設許可証の写しを求められることです。厚生局の申請締め切り日に保健所の開設許可証交付が間に合わなければ、開院のスケジュールにも大きく影響するので注意しましょう。

保健所

保健所は地域保健法に基づき、都道府県や政令指定都市、中核市などが設置する公的機関です。地域住民の健康や衛生を推進する拠点であり、医療機関等の指導監督にあたる立場でもあり、クリニックを開業する際は、保健所に対する各種申請が必須です。

資金に関する用語

運転資金

クリニックの開業後、日々の運営に必要な資金を指します。毎月の人件費や福利厚生費、医薬品・医療材料費、水道光熱費といった経費や、テナント賃料、開業資金の返済費用などをすべて含めて運転資金といい、ランニングコストとも呼ばれます。

診療の成果である診療報酬の入金は2カ月後ですから、クリニックのオープン時にはそれを見越した運転資金を用意しておく必要があります。通常はクリニックの経営が軌道に乗るまでしばらくは持ち出しになる資金のため、借入金よりも自己資金を運転資金に充当するのが望ましいでしょう。

運転資金が乏しいと資金繰りのことで頭がいっぱいになり、診療に支障をきたすことにもなりかねません。計画の段階で少なくとも1~2年程度のキャッシュフローをシミュレーションしておきたいところです。

開業資金

クリニックを開業するために必要な最低限の資金を指します。一般的には物件取得費用や内装工事費、医療機器や備品、オープニングスタッフの人件費など、開業までに必要な資金をすべて含めて開業資金といい、イニシャルコストとも呼ばれます。

開業資金は自己資金や金融機関等からの融資によって賄いますが、創業支援を行なっている自治体や医師会も存在するので、事前に相談してみるのもひとつの方法です。何よりクリニックのスタート後に開業資金の返済が苦しくならないよう、余裕を持った資金計画を立てておくことが重要です。

減価償却

減価償却とは、時間の経過とともに資産の価値が減少していくという考え方です。

たとえば、往診用に250万円の車を購入したとします。車は使用していくうちに資産価値が減り、最後には価値がなくなります。そこで、車の購入費用すべてを購入時の経費とするのではなく、今年は○○万円、来年は○○万円というように何年かに分けて経費に計上します。これが経理上の減価償却費の考え方で、資産の種類によって償却期間が決められているのが特徴です。

自己資金

クリニックの開業にあたって、ドクターが自分自身で用意する資金を指します。

もちろん自己資金は多いに越したことはありませんが、一般的なクリニックの開業では開業資金の2割程度を自己資金で用意することが多いようです。とはいえ開業前の状況はドクターによって異なりますので、自己資金ゼロで開業に踏み切るドクターも少なくありません。

ただ、金融機関から融資を受ける場合、自己資金が多いほどドクターに対する信頼度も高くなることは間違いありません。逆に自己資金が少ないと事業計画に対する見方も厳しくなり、融資の審査が通りにくくなることもあるでしょう。

助成金

助成金は、主に厚生労働省が雇用促進や人材育成を目的として交付するものです。

その多くが年間を通して申請可能で、業種や職員数など諸々の条件を満たしていれば受給できるので申請自体の難易度は低いと考えられます。人気がある助成金はすぐ受付が終了してしまうケースもあるので、最新情報をこまめにチェックして、公示のタイミングに合わせて早めに申請したほうがいいでしょう。

設備資金

事業の開始にあたって、事前に用意が必要な設備に必要な資金のことです。

クリニックの場合は土地や建物といった不動産にかかる費用、医療機器や備品の購入費用などが該当します。このほか、開業時には広告費や医師会の入会金、コンサル費用などが必要で、これらは設備ではありませんが初期投資という意味では設備資金と同じ考え方です。

設備資金はまとまった金額が必要なため、金融機関などから資金を調達することが多くなります。オープン後の運転資金、返済資金などを考慮すると、できるだけ自己資金を用意して資金繰りに余裕を持っておいたほうがいいでしょう。

損益分岐点

収入と支出が一致し、ちょうど損益がゼロになる売り上げのポイントを損益分岐点といい、それ以上に売り上げが増えると利益が出てきます。クリニックの運営では毎月ランニングコストがかかりますが(「運転資金」参照)、診療の収入からランニングコストを引いた差額が利益となります。

オープンしたばかりのクリニックでは、損益分岐点を下回ることが多いと思われます。患者さんがどのくらい来院すると損益分岐点に達して利益が出てくるのか、計画の段階でしっかり把握しておきましょう。

ファクタリング

ファクタリングとは「債権買い取り」を意味し、売掛金をファクタリング会社に売却して手数料を差し引いた現金を得ることを指します。

クリニックなどの医療機関の場合は、社会保険支払基金や国民健康保険団体連合会に請求した診療報酬債権をファクタリング会社に売却します。通常、診療報酬が入金されるまで2カ月を要しますが、ファクタリングを利用すると前倒しで入金されるので、諸々の費用に充てる資金を確保できます。

補助金

補助金は、主に国が新たな事業や創業の促進、諸々の国策を促進するための手段として交付するものです。

助成金に比べて種類が多く、支給額も数百万円から数億円と、助成金よりも多額の場合が多いようです。経費の適用範囲が広いのも補助金のメリットです。種類によって経費の補助率や交付上限額は異なり、事前・事後の審査によって交付額が変わる場合があるので注意が必要です。

リース

レンタルとリースを混同してしまう向きもありますが、リース会社が商品を代替購入し、ユーザーに長期にわたって貸し出すサービスがリースです。クリニックを開業する場合、医療機器や備品を購入するか、リースにするかを検討します。

リースは初期費用を抑えられるので、そのぶん開業資金を有効に活用できるようになります。支払総額は購入するよりも高くつきますが、頻繁にモデルチェンジする医療機器なら買い替えのリスクを負わずに入れ替えられるというメリットもあります。

物件・不動産に関する用語

医療モール

複数のクリニックの入居を前提に計画・設計された建物で、メディカルモール、クリニックモールなど呼び方はさまざまです。水回りや電気容量、天井高などもクリニックの構造に向いているため、通常のビルテナントよりも内装工事費を抑えやすいでしょう。

通常は複数の診療科と調剤薬局が入居するので地域住民の認知度・利便性も高く、クリニック同士で患者さんを紹介し合ったり、駐車場や設備を共用できたりするのも医療モールの大きなメリットです。

継承開業(承継開業)

院長の高齢化など、さまざまな理由で診療の継続が困難になったクリニックを引き継ぐ形で開業することを継承開業(承継開業)といいます。親子など血縁者で継承することもあれば、まったくの第三者であるドクターが継承することもあります。

一般的な開業は経営が軌道に乗るまで一定の期間を要しますが、継承開業の場合は患者さんやスタッフを引き継げること、建物や設備をそのまま利用できることなど、すでに地域に認知されていることなど多くのメリットがあります。

第三者が継承する場合は不動産や営業権などの対価が発生するので、適正な価格を設定する意味でも開業コンサルタントに仲介を依頼することをおすすめします。

定期建物賃貸借契約(定期借家契約)

契約期間満了以降の更新をしないことを特約した建物の賃貸借契約を定期建物賃貸借契約(定期借家契約)といいます。ショッピングモールなどの商業施設や医療モールで開業する場合は定期建物賃貸借契約になっていることが多く、契約期間満了時には退去を求められるので注意が必要です。

オーナーと開業医、双方の合意があれば再契約も可能ですが、その際は改めて契約を結び、新たに敷金や仲介手数料の支払いが必要になります。

戸建て開業

自宅の改修や別の土地での新築など、一軒家の形態で開業することを戸建て開業といいます。もちろん初期投資は大きくなりますが、間取りや内装の自由度は高く、駐車場のスペースも取りやすいので車社会の北海道では重宝されるでしょう。

土地の所有者がクリニックを建設し、医師が賃貸で入居する建て貸し(リースバック)という形態もあります。

ビル診(ビル診療所)

駅前や繁華街、オフィス街など、ビルの一角を借り受けて開業するクリニックを俗にビル診(ビル診療所)といいます。中にはテナントすべてがクリニックで、医療モールに近い形態を取っているところもあります。戸建て開業に比べて初期投資を抑えられるので、都市部での開業を目指す場合はビル診を検討するケースが多くなるでしょう。