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近年、医療費の増加にともない「高額医療費制度」の見直しが検討されています。
これは患者だけでなく、クリニックを経営する医師にとっても無関係ではありません。制度が変われば、患者の受診行動や診療報酬にも影響する可能性があります。
ここでは、今話題になっている高額医療費制度の改定の動きと、その背景、そして今後の展望について解説します。
※このページは2025年3月時点での情報をもとに作成しております。
高額医療費制度とは、1カ月間に支払った医療費が高額になった場合、自己負担額の上限を超えた分が払い戻される制度です。
70歳未満で年収370〜770万円程度の一般的な所得層の場合、1カ月の自己負担上限は約8万円程度となっています(※1)。
高齢化と医療技術の進歩により、医療費全体が年々増加しています。特に入院やがん治療などの高額な医療に対して、この制度が大きな財政負担となっているのです。
また、「負担が軽すぎることで無駄な医療を誘発しているのでは」という指摘もあり、制度設計の見直しが求められています。
※1:参考/厚生労働省「高額医療費制度を利用される皆さまへ」https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000336647.pdf
現在検討されているのは、特に「現役世代の高所得者」に対する上限額の引き上げです。
たとえば、年収1,160万円以上の層では、1カ月あたりの負担上限を10万円以上に引き上げる案が出ています(※2)。
現在の制度では、70歳以上の方の自己負担はかなり抑えられていますが、これが見直される可能性も指摘されています。
特に医療を多く利用する高齢者層の負担増が議論されており、受診抑制につながる懸念もあります。
※2:参考/社会保障審議会 医療保険部会(令和5年7月開催資料)https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_33894.html
高額医療費制度の見直しと並行して、医療保険制度の持続可能性を保つために保険料の引き上げも検討されています。
特に協会けんぽ(中小企業)や国民健康保険(自営業など)では、今後も毎年のように保険料率が上がると見込まれています。
スタッフを雇用する開業医にとっては、事業主負担が増えることで経営コストが高くなります。
また、患者側にとっても社会保険料が上がれば、受診回数や治療内容への影響が出てくる可能性があります。
高額医療費制度が厳しくなると、経済的理由から受診を控える患者が増える可能性があります。
結果として、特に慢性疾患の患者数や検査の実施件数などに影響が出る恐れがあります。
今後の制度改定によって、保険診療だけに依存するのではなく、自由診療や自費診療の導入を検討するクリニックも増えていくかもしれません。
先進医療や予防医療など、新しい医療モデルへの対応が、今後の差別化ポイントとなる可能性もあります。
高額医療費制度の見直しは、今後の医療制度全体の方向性に関わる重要なトピックです。
その背景には医療財政のひっ迫や人口構造の変化があり、社会保険料の上昇も避けられない状況です。
今後クリニックを開業する方やすでに経営している方は、制度改定の動きをしっかりとチェックし、自院の診療方針や経営計画に活かしていく必要があります。
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