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クリニック開業と
保健所立入検査

クリニックを開業する際には、管轄の保健所に「診療所開設届」を提出しなければなりません。その後に保健所の担当官が実際にクリニックを訪問し、立入検査を実施します。

この立入検査では、多くのクリニックが何らかの指摘や指導を受けています。どのような項目を検査されるのかを知っておき、クリニック開業時の運営に支障を来たさないよう準備しておくことが大切です。

※本記事に関しては、とくに「北海道地区」にフォーカスして情報収集・作成をしています。保健所立入検査を受ける際には所管の保健所に問い合わせてくださるよう、お願い申し上げます。

立入検査の目的

保健所は保健衛生行政機関のひとつで、地域住民の健康を広域的・専門的・技術的に支える施設と位置づけられています。具体的には難病や精神保健に関する相談、結核や感染症の対策、薬事・食品衛生・環境衛生に関する指導や監視といった専門性の高い業務を実施しており、医療法に基づいて実施される医療機関への立入検査もそのひとつです。

立入検査は、対象となる医療機関が「科学的かつ適正な医療を行なう場」として相応しいかどうかを確認することで、医療法や関連法令を遵守させることが目的です。具体的には、医薬品や医療機器は適切に管理されているか、医療廃棄物(感染性廃棄物)は適正に処理されているか、診療録等の記録は適切に管理されているか、適切な院内感染・医療安全・防災対策を講じているか、職員の健康管理を適切に行なっているか、といった点などがチェックされます。

近年では診療放射線に係る安全管理体制も確認されるようになったほか、新型コロナウイルス感染拡大を受けて院内感染対策が従来以上に重視されるようになっています。

立入検査の主なチェックポイント

立入検査は厚生労働省医政局が基準を示し、次いで各自治体が立入検査要綱を作成、それに則って実施されるものです。ここでは検査で主にチェックされるポイントをお伝えします。

人事関係

医師や看護師、看護補助者、薬剤師などの医療スタッフは、医療機関の診療体制や患者数などによって標準人員数が決まっており、保健所の立入検査では人員に不足がないかをきちんとチェックされます。勤務表やタイムカードのほか、医療スタッフの免許証を確認される場合もあるため、必ずコピーを保管しておきましょう。

また、スタッフの健康管理として、法定の健康診断を実施して記録を保管しておくことも求められます。

必要文書の管理状況

法令で定められた必要文書の管理状況もチェックの対象です。以下の文書やデータをきちんと保管しておきましょう。

  • 診療所開設届
  • カルテもしくは電子カルテのデータ(最終診療日より5年保存)
  • 放射線機器等の備え付け届
  • 放射線機器等の定期測定記録
  • 医療安全管理や院内感染対策に関する指針を示す文書
  • 処方箋の控え
  • その他、関連法令で定められた文書

これらの中には開業時に用意できない文書もありますが、立入検査は開業後しばらく経ってから実施される場合もあります。それに備えて必要文書は必ず院内に保管し、すぐに取り出せるようにしておかなければなりません。

院内掲示の状況

医療法で定められた事項を院内の見やすい位置に掲示する必要があります。以下はその一例です。

  • 管理者(院長)及び医師の氏名
  • 診療時間及び休診日
  • 各室の用途の表示(診察室、処置室、レントゲン室等)

医薬品の管理状況

医薬品は、さまざまな法令によって適切な保管、管理体制が定められています。

たとえば麻薬や毒劇物は施錠できる専用の保管庫で管理しなければなりません。さらに麻薬は受払の都度帳簿に記載して常に在庫状況を把握できること、毒劇物は他の医薬品と区別して保管することなどが求められます。冷所保存品は専用の冷蔵庫に保管した上で、随時温度をチェックできるようにすべきです。

また、名称や形状の紛らわしい医薬品の誤用防止対策や、適切な遮光保存の状況なども確認事項に含まれます。

医療機器、放射線設備の管理状況

医療機器は清潔な状態に保たれ、点検や保守管理を適切に実施していることを求められます。

放射線設備を有するクリニックであれば、放射線管理区域における適切な措置を講じているか、放射線防護は万全か、放射線障害の防止に必要な注意事項を掲示しているかなどを厳しくチェックされます。

廃棄物の管理状況

医療廃棄物、感染性廃棄物の管理状況も立入検査で重視される項目です。特に感染性廃棄物はバイオハザードマークを明示し、適切な方法で処理されなければなりません。

防災体制の状況

医療機関にはスプリンクラーもしくは相当数の消火器を設置する義務があります。施設の規模や耐火構造、その他の条件によって設置数は変わります。

個人情報の管理体制

患者さんの診療情報は極めて重要な個人情報であり、その取り扱いには細心の注意が必要です。立入検査では個人情報保護の観点から、カルテや処方箋などの管理体制をチェックされます。電子カルテを導入している場合でも、情報漏えいに対する十分なセキュリティ対策を確立しておきましょう。

また、スタッフに個人情報保護に関する研修を実施するなど、クリニックとして個人情報保護に取り組む体制が整っているかもポイントになります。

給食設備の管理体制

有床クリニックの場合は、入院患者さんに食事を提供する給食設備についてもチェックされます。厨房の構造や衛生管理が適切か、また検食の実施についても確認を受けます。衛生管理に係る点検表や検食簿は正確に記録し、保管しておきましょう。

その他

上記のほか、実際の保健所立入検査では以下のような項目がチェックされることもあるため準備しておきましょう。

  • レントゲン撮影や調剤など、無資格者による医療行為はないか
  • カルテの様式や記載内容は適切か
  • 医療法で認められた事項以外の広告を行なっていないか
  • 感染性廃棄物の処理実績に関する書類を適切に保管してあるか
  • 医薬品用の冷蔵庫に食品や飲料を保管していないか
  • 使用期限を経過した医薬品を保管していないか
  • 定期的に漏えい放射線測定を実施しているか
  • 外部被ばくの測定、放射線防護衣の着用など、被ばく防止対策が取られているか

立入検査当日の流れ

立入検査の当日は、通常1~2名の担当者がクリニックを訪問します。最初に書類等のチェックが行なわれ、その後は院内をラウンドしながら必要項目を実地で確認していきます。

検査が終了すると総評の報告があり、不備がある場合は口頭で指摘を受けます。指摘事項が多かったり、重大な問題があったりすると、後日文書による指導を受けた上で改善報告書を提出しなければなりません。

立入検査をスムーズにクリアするために

前述のとおり、立入検査のチェック項目は多岐にわたるため、指摘事項や指導事項をゼロにするのは難しいといえます。しかし、開業前の時点で担当者に「どんなことに気をつけて開業準備を進めていけばいいのか」を相談しておき、そのとおりに対策を取っておけば、開業後の立入検査もスムーズにクリアできるでしょう。

立入検査は開業医にとって初めての実地での行政対応であり、勝手がわからないかもしれません。そんなときは開業コンサルなどの専門家に同席してもらうのもいいでしょう。開業コンサルは医療法など関連法令にも精通しているので、もし保健所から指摘や指導を受けたとしても、その後の対応を手厚くサポートしてくれるはずです。