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クリニックにおける院内感染対策は、患者さんやスタッフの安全を守るために欠かせない重要な課題です。もし院内感染が発生したら、クリニックの評判を落とすだけではなく、経済的な損失や法的リスクをもたらす場合もあります。小規模なクリニックでも適切な対策を怠ると容易に感染が広がるため、スタッフは一丸となって感染防止に取り組まなければなりません。
ここでは、クリニックで実施すべき具体的な院内感染対策について解説するとともに、その重要性を探っていきます。
開業医にとって、重大なリスク要因のひとつが院内感染です。ひとたび院内感染が発生すると、診療の停止やスタッフの離職といったリスクだけではなく、患者さん、ひいては地域社会からの信頼を失うことにもなります。もちろん、クリニックの経営にも深刻な影響を与えるでしょう。
経営者である開業医は、院内感染のリスク管理と対策を自らの責務と捉え、徹底した予防策を講じなければなりません。
院内感染とは、その言葉のとおり医療施設内で発生する感染症を指し、もちろんクリニックにもそのリスクがあります。原因となる病原体がどのように広がるのか、その対象や発症のタイミング、クリニック特有の制約など、さまざまなリスクを理解して適切な対策を講じなければなりません。
院内感染の原因は、医療施設内に存在する病原体です。これにはウイルスや細菌、真菌などが含まれ、直接的な接触や飛沫感染、器具を介した間接的な接触など、さまざまな経路で広がっていきます。
小規模なクリニックでは空間が限られているため、病原体が拡散しやすい環境になり得ます。
院内感染のリスクは、患者さんはもちろん、スタッフや業者など、院内に出入りするすべての人たちにあります。中でも免疫力が低下している高齢者や慢性疾患を抱える患者さんは感染リスクが高いため、特に注意が必要です。
院内感染は、病原体に感染してもすぐに症状が現れるとは限らず、入院3日目以降がひとつの目安といわれています。しかし、外来だけのクリニックでも待合室や診察室での接触感染は十分に起こり得るため、入院ベッドがあってもなくても注意は必要です。
クリニックでは、限られたスペースの中で複数の患者さんが同じ空間を共有します。発熱など感染症の疑いがある患者さんと一般の患者さんが同じ待合室で待機する場合などは、感染が広がるリスクが一層高くなります。
また、クリニックは病院に比べてスペースや設備に限界があり、十分な隔離や動線分離ができないことも課題です。
院内感染が発生するとクリニックの信用は失われ、患者数の減少やスタッフの士気低下を招く恐れがあります。また、仮に院内感染の原因がクリニック側の過失であれば、法的な責任を問われる可能性も出てきます。そうなれば経済的な損失も大きく、クリニックの経営にも大きなダメージをもたらすでしょう。
院内感染の予防には、まずは経営者である開業医が率先して基本方針を示すことが重要です。感染症予防のガイドラインやマニュアルを策定し、その内容をクリニック全体に周知しましょう。
まずは感染予防策を徹底し、すべてのスタッフが共通の基準に基づいて行動できるようにしなければなりません。感染予防の重要性を理解させ、日常的なマスクの着用や手指消毒、換気や清掃など、基本的な感染予防行動を徹底し、クリニックの環境を常に衛生的に保つことが必要です。
そしてスタッフの安全と健康を確保するためには、スタッフが自分自身を守ることを優先すべきです。スタッフが感染してしまうと、当然ながら患者さんの感染リスクも高まり、診療を続けることも難しくなります。そうならないように、クリニック内で感染対策に関する研修や教育を定期的に実施して、常に最新の知識を共有しておくようにしましょう。
もし院内感染が発生したら、診療を継続すべきかどうかの判断を迫られます。クリニックの社会的責任の観点から、感染拡大リスクと事業継続のバランスを検討しつつ、できる限りの診療を提供するための計画を立案しなければなりません。
その手順をあらかじめ決めておくことも重要です。それは万一の際にクリニックが一時的に診療を停止するのか、それとも限定的に続けるのか、その判断を迅速に決定するための手順を整えておく、ということです。また、患者さんへの通知方法や感染拡大防止のための具体的な対策も事前に検討しておくことが、リスクマネジメントの観点からも重要です。
クリニックで使用する医療器具や設備の定期的なメンテナンスと消毒も、感染対策の基本だといえるでしょう。使用後の医療器具を徹底的に消毒・滅菌するのは当然ですが、頻繁に触れる場所(ドアノブや椅子、デスクなど)を日常的に消毒することも大切です。
器具や設備のメンテナンス計画を策定し、定期的に点検・消毒を行なうことで、感染リスクを大幅に軽減することができるでしょう。
それでは、いくつかの具体的な対策を挙げてみましょう。これらの内容は患者さんやスタッフ、設備全般に及びます。
患者さんの動線設計は、いわば感染予防の要です。感染症が疑われる患者さんは他の患者さんと隔離することを原則とし、別の待機場所を設けた上で短時間での診療を心がけましょう。
また、待合室の座席配置を工夫して患者さん同士の距離を確保したり、空気の循環を改善するために換気システムを見直したりすることも効果的です。空間に病原体が蔓延するリスクを軽減できます。
言うまでもなく、診察室や処置室での衛生管理も極めて重要です。
患者さん一人ひとりの診察や処置の都度、使用した器具やベッド、椅子などを適切に消毒し、清潔な環境を提供するのが当然の対応です。スタッフもマスクや手袋を適切に着用し、感染リスクを最小限に抑えなければなりません。
各室だけではなく、医療器具にも適切な消毒・滅菌が必要です。器具ごとに適切な消毒方法を確認し、使用後はすぐに消毒・滅菌を行なう手順を徹底しましょう。
再利用が可能な医療器具は滅菌の工程をしっかり確認し、感染を起こさないように細心の注意を払わなければなりません。また、滅菌のプロセスが適切かどうかも定期的にチェックすべきです。
感染防止の観点からは、清掃やメンテナンスを担当する外部業者との連携も欠かせません。感染リスクを最小限に抑えるために外部業者とも感染対策を共有し、クリニックの方針に沿った清掃やメンテナンスが実施されているかどうかを確認する必要があります。
清掃業者に定期的な消毒作業を委託している場合は、その手順を随時見直し、必要なエリアを重点的に対応してもらうことも大切です。
すべてのスタッフに感染対策を徹底するためには、定期的な教育と感染対策マニュアルの整備が必要です。最新の感染対策に関する知識やスキルを共有するほか、マニュアルも頻繁に見直し、感染症の流行状況や医療の進歩に応じてバージョンアップされるべきです。
院内感染予防には、患者さんの協力も不可欠です。その重要性を伝え、理解を得なければなりません。特に手洗いやマスク着用の徹底を求める際には、わかりやすく丁寧に説明することが大切です。パンフレットやポスターなども活用し、感染予防のために患者さんに取ってもらうべき行動を周知徹底しましょう。
患者さんに院内感染予防のための対策を説明する場合は、専門用語を避け、簡潔で理解しやすい言葉で伝えることが求められます。マスク着用や手指消毒をお願いする際も、理由を明確にした上で協力を促します。
患者さんの協力を得るためには、具体的な行動を示すこと、そしてそれが感染予防にどう役立つのかを説明するのが効果的です。たとえば来院時の手指消毒、在院中のマスク着用など、感染拡大を防ぐための具体的な行動を促します。
インフォームドコンセントの徹底も感染予防策の一環になります。患者さんが感染リスクを理解し、協力的な姿勢でいてくれるように、十分な説明を行なうべきです。患者さんとスタッフの双方が安心して治療に望めるようになるでしょう。
上記からもわかるとおり、クリニックにおける院内感染対策は患者さんとスタッフの安全を守るための重要なポイントです。経営者である開業医が率先して感染予防の基本方針を策定し、スタッフとも患者さんとも協力しながら対策を徹底することで、感染リスクを最小限に抑えることができるでしょう。
そして、定期的な対策の見直しや新しい知識やスキルを得ることで、クリニック全体で安全な医療提供環境を維持し続けることが可能となるのです。