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クリニックの開業を志す多くの医師にとって、最大の難関ともいえるのが資金調達ではないでしょうか。内装工事や医療機器の導入、開業後の運転資金などに相応の金額を用意しなければなりません。
ここでは、クリニックの開業に必要な資金の調達方法やポイントについてお伝えします。
自己資金ゼロでも開業できたというケースがないわけではありませんが、やはり勤務医時代からの貯蓄や退職金といった自己資金は開業資金の根幹です。やはり多いに越したことはないでしょう。
金融機関から融資を受ける場合も、自己資金が多いほど無理のない事業計画だと評価されるようです。実際、開業資金の10~20%程度が自己資金であることを融資の条件とする金融機関もあります。
ただ、自己資金が少ないからと開業を諦める必要はありません。他の調達方法で必要な資金を確保できるなら、無借金にこだわりすぎないことも大切です。
金融機関よりもずっと身近な存在である、親族や知人から資金を借り入れるドクターも多いようです。特に親族からの借り入れは、金融機関が実質的に自己資金だと見なしてくれることも多いので、もし頼れるならば頼りたいところです。
ただし、きちんと返済しなければ贈与と見なされ、課税の対象になる可能性があります。しっかりした契約書を作成して適正な利息を設定し、銀行振り込みなど記録に残る返済方法を検討しましょう。
何より金銭トラブルは人間関係を悪化させます。どんなに信頼している相手でも契約、返済は確実かつ誠実に行なうことです。
クリニック開業の資金調達先として第一選択肢ともいえるのが日本政策金融公庫で、実際に多くの開業医が融資を受けています。中小事業者に向けて開業資金や運転資金を比較的低金利で貸し付けてくれる政府系の金融機関であり、民間の金融機関よりも審査が通りやすい傾向にあるほか、無担保・無保証融資枠もあります。もし不動産や有価証券などの物的担保があれば、それだけ融資枠も大きくなります。
開業資金の借り入れが必要な場合はぜひ検討したい借入先ですが、問題は審査に時間がかかること。3週間から1カ月程度の時間を要することもあるため、余裕をもって早めに申し込むようにしましょう。
地方自治体と信用保証組合との連携による制度融資も、低金利かつ固定金利で融資を受けられるのでおすすめです。民間の金融機関よりも審査が通りやすい面があり、地方自治体が金利や信用保証協会の保証料の一部を負担してくれる場合もあります。ただし、審査から融資の実行まで時間がかかるほか、開業地が限定されるケースもあるので注意が必要です。
また、都道府県医師会の多くが医師信用組合や地方自治体と連携した開業支援ローンを取り扱っており、北海道医師会にも「特約融資制度」があります。医師会に加入することが必須条件ですが、不動産の取得や設備・運転資金だけではなく、高額な医師会加入費用も借り入れが可能です。
参照元:北海道医師会「北海道医師会のススメ」[PDF]http://www.hokkaido.med.or.jp/about/pdf/nyuukainoshiori.pdf
民間の金融機関ではクリニック開業に特化した融資プランを取り扱っているところも多く、金利など条件がマッチすれば有力な資金調達先になってくれるでしょう。北海道ではどちらかというとメガバンクよりも地方銀行や信用金庫のフットワークが軽く、審査から融資の実行まで比較的スピーディーな印象です。
融資の上限額や金利、担保や保証人の必要性などは金融機関によって対応に差がありますが、最初の取り引きでは信用保証協会の保証を要することが多いでしょう。また、税理士や開業コンサルの紹介、開業地選定アドバイスなど、融資に伴って付随サービスを受けられる場合もあります。
国や地方自治体ではさまざまな補助金・助成金制度を運用しており、クリニックの開業が該当する制度は数多くあります。例を挙げると中小企業庁の創業補助金や厚生労働省の雇用助成金、地方自治体によるスタートアップ助成金などさまざまで、いずれも返済が不要であることが最大のメリットといえます。
近年では経済産業省のIT導入補助金制度を活用し、電子カルテやオンライン診療システム等を導入するケースも増えています。
クリニックを開業する場合は、利用できる補助金や助成金がないか確実にチェックしましょう。これは情報収集力にかかっているので、先輩開業医や開業コンサルに相談することも重要です。
医療機器をリースで導入するのも、見方を変えると資金調達の1つの手段といえます。なぜなら、医療機器を購入するための借入金を返済することと、医療機器をリースで導入してリース料を毎月支払っていくことは、キャッシュフローの面では同じだからです。
金融機関からの融資より金利は高く、利用範囲が限られるというデメリットはありますが、それほど審査は厳しくないので手軽に活用できる手段といえます。
医療機器のリースを手がけている企業の中には、開業資金の貸し付けを行なっているところもあります。もしリースで導入したい医療機器がある場合は、資金調達について相談してみるのもいいでしょう。
冒頭でお伝えしたとおり、自己資金ゼロでの開業が不可能というわけではありません。ただし、資金調達が難航する覚悟は必要です。
自己資金がないと金融機関から開業への姿勢や意欲を疑われ、融資の交渉がスムーズに進まない可能性があります。そもそも、融資の条件に自己資金のパーセンテージが設定されていれば申し込みすらできないことになります。
開業できたとしても、自己資金が少なければ資金繰りにも余裕がなくなり、収支の見込みが少しずれただけでも早々に資金ショートを起こしてしまう恐れがあります。自己資金は可能な限り多めに準備しておくべきでしょう。
ただ、できるだけ自己資金を投入して金融機関からの借り入れを減らしたほうがいい、というわけでもありません。開業後の予期せぬトラブル・リスクに備えて自己資金の一部を残しておくべきです。
開業前に正確な患者数を把握することは困難です。見込みが多少外れても経営が耐えられるように、金融機関からは多めの資金調達を行ない、経営が軌道に乗って資金に余裕が生まれたら繰り上げ返済を行なえばいいのです。
クリニックの規模や診療科にもよりますが、開業資金の2割程度の自己資金を投入し、有利な融資条件で金融機関から資金を調達することをおすすめします。
資金調達の際に重要視されるのは、開業を志すドクターの「こんなクリニックを目指している」という思い、つまりは経営理念や診療方針です。そこがしっかりしていると、必要な設備や医療機器、人員配置などを具体的にイメージできるので、どれだけ資金が必要かも見えてきます。
金融機関から融資を受ける場合、面談で経営理念や診療方針は必ず聞かれるのできちんと固めておきましょう。融資担当者が受ける印象次第で審査が通る可能性も大きく変わってきます。
クリニックの開業には事業計画書の作成が欠かせませんが、これは金融機関から融資を受ける際に最も重要だといえます。金融機関は融資の内訳や整合性、クリニックの将来性などを事業計画書でチェックするからです。
クリニックのコンセプトや収支計画の精度・現実味によって、融資の上限額や金利も変わってきます。開業地選定の理由や競合先との差別化など、明確な根拠を事業計画書で示すようにしましょう。
融資の確実性を高めるためには、事業計画書の作成にあたって開業コンサルなど専門家のサポートを受けることも検討すべきです。
資金調達に全力を尽くしても、残念ながら希望額を満額借り入れできないこともあるでしょう。その場合は開業資金をなるべく抑えなければなりません。以下にいくつかの方法を紹介します。
戸建て開業でもテナント開業でも、物件の規模や内装工事の程度によって費用は大きく変わります。
そういったハード面の費用を抑える方法として第一に挙げられるのが、居抜き物件で開業することです。基本的には前のクリニックの物件、内装を使用できるので、工事費はかなり抑えられます。このほか、地価や家賃相場の低いエリアを選ぶことも検討すべきです。
ただし、費用を抑えようとするあまり不利な開業地・開業形態に走ってはいけません。十分な診療圏調査を実施した上で判断することが何より大切です。
開業時は設備投資を最小限に抑え、過剰な投資をしないことが重要です。
たとえば検査機器などは自院ですべてそろえるのではなく、他の医療機関との連携による共同利用や検査センターへの外注も視野に入れるべきです。自院への設置が必要な場合は初期費用だけではなく、ランニングコストも考慮してトータルでの必要経費を算出した上で投資を検討しましょう。
開業資金では不動産や設備投資に目が行きがちですが、人件費や採用費も相応の金額がかかります。開業時は少人数でスタートし、患者数の増加に合わせてスタッフを増やしていくべきでしょう。
エリアや雇用条件にもよりますが、オープニングスタッフは比較的応募が多いと思われます。採用費を削減するためにまずはハローワークなど無料の求人媒体を活用し、上手くいかなければ有料の求人媒体を使用してはいかがでしょうか。
自己資金が潤沢であれば開業のハードルもそれだけ低くなるのは事実ですが、それはむしろレアケースであり、多くの開業医は外部からの資金調達によってクリニックをスタートさせています。
開業資金はできるだけ有利な条件で調達したいところですが、それには専門的な知識や経験がものをいいます。経験豊富な開業コンサルのサポートを受けたほうがスムーズな資金調達が可能となるでしょう。