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これからクリニックを開業しようとする医師にとって、「開業医の総量規制」は長く関心を集めてきたテーマです。以前は「いつから規制が始まるのか」が議論の中心でしたが、2026年4月1日の改正医療法施行により、制度は具体的に動き始めました。ただし、全国どこでも開業しにくくなったわけではありません。国が示した候補は9医療圏に限られ、そこに北海道は含まれていません。
ここでは、確定した制度の内容と、北海道で開業を目指す医師にとって何が変わり、何が変わらないのかを解説します。
医師偏在対策が具体化した起点は、厚生労働省が2024年12月25日に公表した「医師偏在の是正に向けた総合的な対策パッケージ」です。その後、医療法第30条の18の6や健康保険法第68条の2などが整備され、2026年4月1日に施行されました。2026年1月には国の検討会で対象候補となる9つの二次医療圏が示され、3月27日に厚生労働省が「外来医師過多区域の候補区域」として正式に公表しています。
今後は各都道府県が地域の協議を経て実際の区域を指定し、指定・公表後に新規開業者への事前届出や要請の仕組みが適用されます。
今回導入された制度は、対象区域での開業を禁止したり、行政の許可がなければ開業できなくしたりするものではありません。外来医師過多区域に指定された地域であっても、開業する権利そのものが制限されるわけではありません。求められるのは、開業前に「その地域で不足している医療を担う意向があるか」を届け出ることです。地域で必要とされる医療を提供しない意向を示した場合には、外来医療に関する協議の場への参加や理由の説明を求められ、必要に応じて都道府県知事から期限を定めて提供を要請される可能性があります。
つまり、これは「開業医の数を直接制限する規制」ではなく、「その地域で開業する以上は、地域に足りない医療機能も担ってほしい」という要請型の仕組みと理解するのが実態に近いといえます。
制度の背景には、医師の地域偏在があります。都市部には患者が集まりやすく開業にも適した地域が多いため、勤務医から開業医への移行も都市部に偏りやすい一方、地方や過疎地域では医師不足が続いています。さらに、産科、小児科、救急科など勤務負担の大きい診療科には医師が集まりにくく、地域だけでなく診療科による偏在も課題となっています。
地方では、院長の高齢化や後継者不在によって診療所が閉院するケースも相次いでいます。そこで国は、医師が集中する地域への働きかけと、医師が不足する地域への支援を組み合わせて偏在を是正しようとしています。
国は「外来医師偏在指標」を用い、二次医療圏ごとの外来医師の偏在を可視化しています。その上で、候補区域となるためには、①外来医師偏在指標が「全国平均値+標準偏差の1.5倍」以上、②可住地面積あたりの診療所数が全国の上位10%以上、という2つの条件をともに満たすことが必要です。
2つ目の条件が設けられているのは、単純に医師数が多いだけでなく、実際に住民が生活する地域に診療所が高密度で集積しているかを見るためです。つまり、複数のクリニックにアクセスしやすい都市部をより的確に抽出する仕組みといえます。
国が2026年3月27日に公表した候補区域は、次の9医療圏です。
| 都道府県 | 二次医療圏 |
|---|---|
| 東京都 | 区中央部 |
| 東京都 | 区西部 |
| 東京都 | 区西南部 |
| 東京都 | 区南部 |
| 東京都 | 区西北部 |
| 京都府 | 京都・乙訓 |
| 大阪府 | 大阪市 |
| 兵庫県 | 神戸 |
| 福岡県 | 福岡・糸島 |
このように、東京都の5医療圏に加え、京都、大阪、神戸、福岡という大都市圏の中心部に限られています。全国には330の二次医療圏がありますが、国の基準に該当したのは9圏域のみです。なお、これらは国が示した「候補区域」であり、実際の外来医師過多区域は、それぞれの都道府県が地域の実情を踏まえて指定します。
外来医師過多区域に指定された地域で無床診療所を開設する場合、原則として開業日の6カ月前までに都道府県へ事前届出を行います。主な届出内容は次のとおりです。
地域で不足する医療としては、夜間・休日の初期救急、在宅医療、学校医や予防接種など公衆衛生に関わる業務、医師不足地域での医療提供などが想定されています。提供しない意向を届け出た場合には、協議の場への参加と理由の説明を求められ、その内容によっては知事から期限を定めて医療提供を要請されます。
開業の6カ月前という早い段階で、自院が地域のなかでどのような役割を担うのかを言語化する必要がありますが、これは規制の対象地域かどうかにかかわらず、開業計画の質を高める上で有効な作業でもあります。
この制度で特に経営上の影響が大きいのが、保険医療機関の指定期間が短縮される仕組みです。通常、保険医療機関の指定期間は6年間ですが、地域で不足する医療の提供について知事から要請を受け、期限までに応じなかった場合や勧告を受けた場合には、3年以内の期限付き指定とすることが可能になりました。さらに、再指定後も勧告に従わない状態が続けば、3回目以降の指定期間は2年とする仕組みが示されています。
指定更新の回数が増えると、その都度手続きが必要になるだけではありません。開業時の融資や将来の追加融資では事業継続性も審査されるため、期限付き指定を受けていることが金融機関による事業評価の材料となる可能性もあります。また、2026年度診療報酬改定では、3年以内の期限付き指定を受けた診療所について、機能強化加算、地域包括診療加算、地域包括診療料、小児かかりつけ診療料の算定や、在宅療養支援診療所の届出を認めない仕組みも導入されました。
これらは開業そのものを禁止する制度ではないものの、要請に応じない場合には、保険医療機関の指定と診療報酬の両面から実質的な経営上のペナルティが生じる設計になっています。
結論からいえば、北海道で開業を検討している医師が、今回の制度を理由に過度に心配する必要はありません。
国が外来医師過多区域の候補として示した9医療圏は、東京、京都、大阪、神戸、福岡の都市部に限られており、北海道の二次医療圏はひとつも含まれていません。したがって、「北海道で開業しようとしたら、新しい開業規制に引っかかるのではないか」という心配は、少なくとも現時点では不要です。
ここで注意したいのが、「医師偏在指標」と「外来医師偏在指標」は別の指標だという点です。2026年4月に公表された一般の医師偏在指標は、全国266.8に対し、道内では上川中部が295.2、札幌が293.4となっています。札幌は全国値を上回り、道内でも医師の多い地域です。
しかし、外来医師過多区域の判定に使われるのは別の「外来医師偏在指標」です。こちらは全国115.7に対し、札幌129.8、上川中部94.1となっています。さらに、候補になるには「全国平均+標準偏差の1.5倍以上」に加え、「可住地面積あたりの診療所数が全国上位10%」という条件も同時に満たさなければなりません。
この2つの条件を国が照合した結果、札幌医療圏は候補9圏域に入っていません。単に「札幌には医師が多い」というだけで、今回の開業規制の対象になるわけではないことがわかります。
もっとも、北海道が今後も永久に対象にならないと断言することはできません。外来医療計画は都道府県が策定し、定期的に見直されます。外来医師過多区域を実際に指定するのも国ではなく都道府県知事です。
人口動態や患者数、診療所数などが変われば指標も更新されるため、開業まで期間がある場合には、その時点の外来医療計画や北海道医療計画を確認しておくことが大切です。また、数値上の指標だけでは把握しにくい医療アクセスや地域事情もあるため、実際の開業計画では地域の実情と合わせて判断する必要があります。
今回の医師偏在対策は、「医師が多い地域への要請」だけで完結するものではありません。医師確保が難しい地域には経済的な支援を行なうという、いわば両輪の制度です。その受け皿のひとつが「重点医師偏在対策支援区域」です。これは医師少数区域とまったく同じ指定ではありませんが、医師確保を重点的に進める地域に支援を集中させる仕組みです。
現行の北海道医療計画では、道内21の二次医療圏のうち11圏域が医師少数区域に位置づけられています。2026年4月公表の新しい医師偏在指標を見ても、全国値266.8に対し、根室124.5、日高129.0、北渡島檜山134.6と、全国のおよそ半分の水準にとどまる地域があります。札幌や旭川のように医師が比較的多い地域がある一方、道東・道北などでは依然として医師確保が大きな課題です。この地域差の大きさこそ、北海道で開業地を検討する際に押さえておきたいポイントです。
重点医師偏在対策支援区域では、医師派遣や代替医師の確保などに加え、「診療所の承継・開業支援事業」が整備されています。診療所を承継または新規開業する場合に、施設や設備の整備、一定期間の地域への定着などを支援する制度です。
地方では、患者がいないから診療所がなくなるとは限りません。地域に一定の医療需要が残っていても、院長の高齢化や後継者不在によって閉院を余儀なくされるケースがあります。こうした診療所を引き継ぐ医師や、医療提供体制の維持が必要な地域に新たに開業する医師を経済面から後押しするのがこの制度です。
北海道でも制度はすでに動いており、2026年度の国の交付内示にも北海道の事業が含まれています。また、北海道は道内市町村が独自に設けている医療機関の新規開設助成制度の一覧も公表しています。国・道・市町村の制度を組み合わせられる場合もありますが、対象地域や条件は制度ごとに異なります。補助内容や対象条件は年度によって変わるため、開業候補地が決まった段階で、北海道保健福祉部地域医療推進局や該当する市町村へ直接確認するのが確実です。
制度の全体像が明らかではなかった時期には、「規制が始まる前に開業したほうがよいのではないか」と考える医師もいました。しかし、制度が施行され、国が示した候補が9医療圏に限られ、北海道が含まれていないことが明確になった現在、開業時期を焦って前倒しする理由はありません。
むしろ、物件選定や資金計画、スタッフ採用、診療圏調査などが不十分なまま開業時期だけを早めることのほうが、経営上ははるかに大きなリスクです。
医師偏在対策は、医師が不足する地域ほど支援を厚くする方向へ進んでいます。競合する診療所が少なく、承継・開業支援も利用できる地域を候補に加えることは、今後より現実的な選択肢になるでしょう。
ただし、補助制度があるという理由だけで開業地を決めるのは危険です。想定患者数、患者の通院範囲、診療科との相性、看護師や医療事務などの採用可能性は地域ごとに大きく異なります。支援制度と診療圏調査の双方から判断することが重要です。
今後の医療政策では、「どこに医療機関があるか」だけではなく、「その医療機関が地域でどの機能を担うか」がより重視されます。今回の制度でも、初期救急、在宅医療、公衆衛生、医師不足地域への協力などが具体的に示されています。
在宅医療や初期救急、公衆衛生は、少なくとも現行制度では政策上重要な医療機能として位置づけられています。開業時から地域の医療計画や地域医療構想を確認し、自院の役割を事業計画に織り込んでおくことが重要です。
開業支援をコンサルタントへ依頼する場合には、「候補地が医師少数区域や重点医師偏在対策支援区域に該当するか」「利用できる国・道・市町村の支援制度があるか」「自治体の担当窓口との調整までサポートしてもらえるか」の3点は確認しておきたいところです。
医師偏在対策は制度が大きく動いたばかりで、地域ごとの運用や支援制度まで把握しているかどうかで支援会社の対応力に差が出やすい分野です。北海道での開業支援実績や、行政との調整経験の有無も確認しておくとよいでしょう。
長く議論されてきた「開業医の総量規制」は、2026年4月の改正医療法施行によって具体的な制度となりました。ただし、導入されたのは開業を禁止する制度ではなく、外来医師過多区域で新規開業する医師に、地域で不足する医療を担うよう求める仕組みです。 国が示した候補は大都市圏の9医療圏に限られ、北海道は含まれていません。一方、道内には現行計画で11の医師少数区域があり、診療所の承継・開業を支援する制度も動き始めています。
北海道での開業を目指す医師にとって、今回の制度改正は単なる「制約」ではなく、地域選びの判断材料と支援策が増えたと捉えるのが実態に近いでしょう。制度や対象区域は今後も更新されるため、候補地を決める際には最新の北海道医療計画や自治体の支援制度を確認することが重要です。