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「開業医の総量規制」の動向は、多くの医師にとって大きな関心事です。現時点(2025年9月現在)では具体的な情報が十分に示されているわけではありませんが、近い将来に動きがあることを見込み、規制が本格化する前に前倒しで開業する医師も出てきているようです。
実際のところ、行政は地域医療の偏在を是正するための制度的な手当てを進めています。そのため、制度上の制約はもちろん、地域医療構想との兼ね合いを十分に理解した上で自院の方向性を定めていくことが不可欠です。単に「開業できるかどうか」だけではなく、将来的な収益性や安定性を見据えて準備を進めていかなければなりません。
総量規制の検討が進められている背景には、医師の地域的な偏在を是正するという大きな目的があります。都市部や大規模病院に医師が集中する一方で、地方や過疎地では依然として深刻な医師不足が見られ、住民が必要な医療を受けにくい状況が続いています。こうした地域偏在の問題に対応するため、行政は医師配置の仕組みや制度的な枠組みを整えようとしています。
さらに近年では地域的な偏在に加えて、診療科による偏在も浮き彫りになっています。特に産科や小児科、救急科などは勤務負担の大きさや勤務環境の厳しさから医師が集まりにくく、一方で眼科や皮膚科など比較的開業しやすい診療科に医師が集中する傾向が見られます。厚生労働省もこうした診療科の偏在を含めた全体像を課題として示しており、単なる数の調整ではなく、地域と診療科の両方におけるバランスの確保が不可欠であることを強調しています。
現在のところ、開業制限の対象地域や制度の詳細は正式に決定されていませんが、「医師が過剰に多い地域」での新規開業に対して、一定の制限を設ける方向で議論が進められています。
将来的には、開業する前に「行政の許可」が必要となるエリアが出てくる可能性があります。
都市部は人口が多く、患者も集まりやすいため、医師にとっては開業に適した環境です。その結果、開業希望が都市部に偏り、地方には医師が行き届かなくなってしまいました。
地方では院長の高齢化や後継者不在による閉院が相次いでおり、地域医療体制が脆弱になっています。総量規制には、こうした過疎地の医療を守る狙いがあります。
地方で医師不足が深刻化すると、少ない医療機関に患者が集中し、対応が追いつかなくなります。診療の質が落ち、住民の健康を損なうリスクが高まります。
医療が受けられない地域では、若い世代が生活の場を都市部に移すようになります。これにより過疎化が加速し、地域の経済活動も縮小していくことが懸念されています。
2024年9月には厚労省主導の「医師偏在対策推進本部」が発足し、12月には具体的な対策案も提示されました。
規制の開始時期は明言されていませんが、早ければ2025年以降に制度が始動する可能性があります。今後開業を考える方は、医師偏在に関する政策動向を注視する必要があります。
医師が不足している地域では、補助金や支援制度が手厚くなる可能性があります。これにより、地方での開業を前向きに検討するドクターにとってはメリットとなるでしょう。
医師が必要な地域に配置されることで、地域ごとの医療の質が底上げされ、住民全体の健康維持に貢献する仕組みが期待されます。
前述のとおり、医師の偏在には地域偏在と診療科偏在の両面が存在し、その是正が総量規制の根本的な目的とされています。
ここでいう地域偏在とは、都市部に医師が集中し、過疎地や離島、山間部では医師が著しく不足している状況を指します。一方、診療科偏在とは、特定の診療科に医師が集まる一方で、産科や小児科、救急科などには医師が集まりにくく、極端に不足する状況を指します。
厚生労働省「外来医療に係る医療提供体制の確保に関するガイドライン」では、医師偏在指標や外来医師偏在指標を活用し、都道府県ごとに二次医療圏別では外来医療体制の偏在を可視化する仕組みが整えられています。これによって外来医療に従事する医師の偏在を明らかにし、「外来医師多数区域」と判断された圏域では、不足する診療科や医療機能を都道府県が補うよう調整する方向性が示されました。
統計では全国の医師数は増加傾向にありますが、診療科ごとの伸びには明確な差があります。リハビリテーション科や形成外科、麻酔科、放射線科といった領域では増加幅が大きい一方、外科などは横ばいにとどまり、増加幅が小さい傾向が確認されています。診療科の偏在は時間外・休日勤務の負担と密接に関係しており、勤務負担の大きい科が敬遠されやすいという現実が背景にあります。
こうした現状を踏まえると、偏在の解消には総合的かつ重層的なアプローチが不可欠といえます。単純に地域ごとに医師を割り振る制度を導入するだけでは、当然ながら診療科の偏りを是正できません。日本医師会や医学部関係者も、医師偏在の本質を地域と診療科の両面にあると捉え、両者の解消こそが喫緊の課題であると繰り返し指摘しています。
さらに、地域・診療科ごとの将来需要や患者構造、医師1人あたりの担当患者数を把握できるデータ基盤の整備も前提となります。日本医師会は需給把握の枠組み強化を訴えており、都道府県レベルでも外来医師偏在指標を用いて地域差を是正しようとする動きが見られます。また、医師キャリア支援センターの設置や、大学出身地域での臨床研修、管理者要件に医師不足地域での勤務経験を組み込むといった提案も示され、若手からベテランまで幅広い層にインセンティブを働かせることが求められています。
ただし、こうした制度的取り組みにも限界があります。医師の診療科や勤務地の選択は、ワークライフバランスや家庭事情など個々の価値観に左右される部分が大きく、行政の制約だけで完全にコントロールすることは難しいでしょう。さらに、外来医師偏在指標などの数値だけに依拠した運用は、地域の実情を無視した画一的な「当てはめ政策」になりかねない点にも注意が必要です。
地域医療の持続可能性を確保するためには、制度的アプローチと現場の実態把握を両立させた、長期的かつ多角的に取り組む姿勢が求められるのです。
医師偏在の是正は、国として取り組むべき重要課題です。都市部への過度な医師集中を防ぐため、今後クリニックの開業には制限がかかる可能性があります。
「どこでも開業できる時代」は終わりを迎えつつあるのかもしれません。将来の開業を見据える医師の方は、地方の医療ニーズにも目を向け、柔軟に戦略を立てることが求められています。